顧客リスト持ち逃げ発生!「営業秘密」として守れてなかった?

ここで学べる学習用語:営業秘密(トレードシークレット), 商品形態の模倣
第41回: 顧客リスト持ち逃げ発生!『秘密』は「営業秘密」として守れてなかった?
「著作権」について神崎さんにビシバシ鍛えられてからというもの、俺は少しばかり法務に詳しくなった、と自負していた。ビジラボのブログ記事やSNS投稿に使う画像素材だって、ちゃんと商用利用可能なものを選び、必要ならライセンス表記まで気を配るようになった。何より、田中や斉藤にも「これ、著作権大丈夫か?」なんて、ちょっとドヤ顔で確認したりもする。
ビジラボのSaaSサービスも順調にユーザー数を伸ばし、新しい機能開発も軌道に乗ってきた。まさに事業拡大期、絶好調だったはずなのに──。
疑心暗鬼のオフィス!元社員の裏切りと『秘密』の流出
東京のインキュベーションオフィスの一角にある、ビジラボのオフィス。以前にも増して活気に満ちた空間で、俺は今日の営業目標を達成し、気分良くコーヒーを淹れようとしていた。
「社長、ちょっとよろしいでしょうか」
背後から、斉藤の少し沈んだ声が聞こえた。普段はテキパキと仕事をこなし、どんなトラブルにも冷静に対応する彼女が、こんな顔をするのは珍しい。俺は嫌な予感を感じつつ、振り返った。
「どうした、斉藤さん。何か問題か?」
斉藤は、俺の正面に立つと、持っていたタブレットを差し出した。画面には、見慣れない会社のホームページが映し出されている。ロゴの色合い、サービス内容の紹介文、UIデザインの雰囲気……。どれも、ビジラボのサービスに酷似していた。
「この会社、『ブレインハック』。先日、うちを退職した山本さんが立ち上げた会社です」
山本──。うちの創業期を支えてくれた、数少ない元社員の一人だ。彼が新しい会社を立ち上げたこと自体は、スタートアップ界隈ではよくある話だ。俺も「頑張ってくれよ!」くらいの気持ちで、彼の再出発を応援するつもりだった。だが、この酷似したサービスはなんだ?
「いや、まさか……。パクリ、ってことか?」
俺の口から出た言葉は、どこか現実味を帯びていなかった。山本は真面目な男だったはずだ。そんなことをするはずがない、と信じたい気持ちと、目の前の事実が乖離していく。
「それが、どうもそうらしいんです」斉藤は唇を噛みしめ、さらに言葉を続けた。「数日前から、既存の顧客さんから問い合わせが来始めてまして……。『青木さんのところから、独立した人が立ち上げた会社だって、ビジラボと全く同じ顧客リストで営業かけてきたよ』って」
「なっ……!?」
俺の頭の中で、鈍器で殴られたような衝撃が走った。顧客リスト。ビジラボが、文字通り血と汗を流して築き上げてきた、かけがえのない財産だ。それを、元社員が持ち出して、競合に利用しているだと?
「マジかよ、山本……!?」
俺の心臓は激しく波打ち、全身の血が逆流するような感覚に陥った。信じていた人間に裏切られたという憤り、そして、自分たちの努力が踏みにじられた悔しさ。怒りで体が震え、指先まで痺れてきた。
「俺たちの顧客リストは、何よりの秘密兵器だ。それを使われたら、まともに戦えないだろ!いますぐ、山本に電話して、どういうことか問い詰める!」
俺はスマートフォンを手に取り、山本の連絡先を探そうとした。しかし、その手は空を切り、フッと腕を掴まれた。振り返ると、そこにはいつものように冷静な神崎さんの顔があった。
流出した『秘密』は「営業秘密」として守れるのか?
神崎さんは俺の怒りに満ちた顔を真っ直ぐに見つめ、静かに言った。
「青木さん、落ち着いてください。今、感情的に動いても事態は悪化するだけです」
「落ち着いてなんかいられませんよ!俺たちの顧客リストが、元社員に持ち出されて、競合に悪用されてるんですよ!?こんなの、泥棒と一緒じゃないですか!訴えてやる!」
俺は目の前で起こっていることの重大さに、半ばパニックになっていた。顧客リスト、開発中の技術情報、事業計画……。スタートアップにとって、これら『秘密』は生命線だ。それが、こんなにも簡単に流出するなんて。
神崎さんは俺の腕を解放し、冷静な口調で問いかけた。
「気持ちはわかります。ですが、感情論だけでは法的に何もできません。青木さん、その『顧客リスト』は、法的に『営業秘密』として保護されていましたか?」
「え……?えいぎょうひみつ?」
俺は頭が真っ白になった。営業秘密。そんな言葉、初めて聞いたぞ。これまで、特許や商標、著作権といった「知的財産権」については、神崎さんから手厳しく、そして丁寧に教えてもらってきた。でも、「秘密」そのものを守る法律があるなんて、考えたこともなかった。
「そうです。『営業秘密』。これは『不正競争防止法』という法律で守られるべき情報のことです。特許や著作権とは、保護のされ方が全く違うんですよ」
神崎さんは、いつものように淡々と、だが有無を言わせぬ口調で言葉を続けた。
「青木さん。あなたが言う『泥棒』だと主張するなら、まずその『顧客リスト』が、法的に『営業秘密』として認められるかどうか、確認する必要があります。そうでなければ、山本さんがあなたの『秘密』を持ち出したとは言えません。なぜなら、彼があなたから『盗んだ』ものが、法律上の『秘密』ではなかった、という可能性も捨てきれないからです」
「そんな……!俺たちの顧客リストが、法律上の『秘密』じゃないなんてこと、あるわけないじゃないですか!?」
俺は絶望的な気持ちになった。血の滲むような努力で築き上げた顧客リストが、まさか法律で守られないかもしれないなんて。目の前の問題は、単なる元社員の裏切り、というだけでは済まない、より根深く、厄介な法務問題へと変貌していた。
神崎の法務レクチャー:『営業秘密』を「宝物」に変える三つの条件
神崎さんは、冷静な面持ちで俺の絶望を打ち破るように、ゆっくりと話し始めた。
「青木さん。知的財産権、例えば特許権や著作権は、その『アイデア』や『表現』そのものを独占的に利用できる権利ですよね。特許権は発明を出願して登録すれば権利が発生し、著作権は作品を作った瞬間に発生する。しかし、『営業秘密』は少し違います。これは、特許権などのように独占権を与えるものではなく、あくまで『不正に取得・使用・開示された場合に、その行為を止めさせ、損害賠償を請求できる』という性質の権利なんです」
俺は必死に神崎さんの言葉を脳に叩き込む。特許や著作権が「攻めの権利」だとすれば、営業秘密は「守りの権利」、しかも守りの姿勢が問われる、ということか?
「そして、その『営業秘密』として法的な保護を受けるためには、三つの厳しい要件を満たしている必要があります。これを『営業秘密の三要件』と呼びます。一つでも欠けていたら、残念ながら『不正競争防止法』による保護は受けられません」
神崎さんはタブレットを操作し、プロジェクターにスライドを映し出した。そこには、大きな文字で「営業秘密の三要件」と書かれていた。
「一つ目は『秘密管理性』。二つ目は『有用性』。そして三つ目は『非公知性』です」
俺は真剣な顔で、スライドの文字をなぞった。
「秘密管理性、有用性、非公知性……。なんすか、それ?」
【神崎の法務レクチャー】『営業秘密』の三要件とは?
1. 秘密管理性(ひみつかんりせい) 「まず『秘密管理性』から説明しましょう。これは最も重要な要件です。要するに、『その情報が秘密として管理されていること』を意味します。青木さん、あなたの会社の顧客リストは、誰でも見られる状態でしたか?それとも、特定の従業員しかアクセスできないように制限されていましたか?」
俺は口ごもった。 「えっと……一応、共有フォルダにはパスワードかけてた、ような……。でも、山本のパソコンにもコピーしてたかもしれないし、誰でも見れる共有のExcelファイルとかも、あったような……」
神崎さんは首を小さく横に振った。 「それでは、秘密管理性があるとは言えませんね。裁判所が認める『秘密管理性』とは、具体的に以下のような措置が求められます」
【神崎の補足解説】秘密管理性とは?
企業がその情報を秘密として取り扱う意思を明確にし、客観的に認識できる措置が講じられていることを指します。これがビジラボ(スタートアップ)において具体的にどう影響するか?
- アクセス制限: 情報を閲覧できる従業員を限定し、物理的(鍵、入退室記録)または電磁的(パスワード、アクセスログ、権限設定)な方法でアクセスを制限していること。
- 秘密表示: 情報そのものや、その情報が記録された媒体(書類、データファイルなど)に「極秘」「社外秘」「Confidential」といった秘密である旨の表示がされていること。
- 従業員への周知: 従業員に対して、当該情報が秘密であり、秘密保持義務があることを明確に告知していること(就業規則、秘密保持誓約書、研修など)。
これらの措置が不十分だと、いくら会社が「秘密だ」と思っていても、法律上は秘密として扱われず、元従業員が持ち出しても『不正競争防止法』違反とはならない可能性があるのです。
「つまり、俺の『顧客リスト』が『秘密』だって、誰もがわかるように管理してなかったら、守ってもらえないってことっすか……?」俺は愕然とした。
神崎さんは頷いた。「その通りです。スタートアップではよくあることですが、情報共有を重視しすぎて、誰でもアクセスできる状態になっているケースが散見されます。しかし、それは裏を返せば『秘密ではない』と判断されかねない、致命的なミスなんです」
斉藤がメモを取りながら質問した。「具体的には、どのような管理が必要なのでしょうか?例えば、クラウドストレージの場合、誰でも編集できるフォルダはNGで、閲覧権限だけにする、とかでしょうか?」
「良い質問ですね、斉藤さん。その通りです。クラウドストレージの場合でも、アクセス権限を厳格に管理し、誰がいつアクセスしたかのログを残すことが重要です。また、紙媒体の資料であれば、施錠可能なキャビネットに保管し、持ち出し記録をつける。退職時には、秘密保持誓約書の内容を再確認させ、社内データを全て返却・消去させるなどの手順も必須です」
俺は、自分の管理体制がいかに甘かったかを痛感した。確かに、共有フォルダには「顧客リスト」とか「営業戦略」とかいう名前のExcelファイルがあったが、パスワードなんて形だけのものだったし、誰でも見れる状態だった。秘密表示なんて、考えたこともなかった。
2. 有用性(ゆうようせい) 「次に『有用性』です。これは、『その情報が客観的に見て、事業活動にとって価値のあるもの』である、ということです。例えば、顧客リストであれば、それを活用すれば売上につながる、コスト削減になる、といった経済的な価値があることです」
「それはもちろん!顧客リストは俺たちの宝っすよ!それがなかったら、ビジラボは成り立たない!」俺は即座に答えた。これだけは自信があった。
神崎さんは微笑んだ。「そうでしょうね。顧客リスト、製造ノウハウ、設計図、事業計画、財務情報、営業戦略なども、通常は有用性がある情報と認められます。ですから、この要件は比較的満たしやすいことが多いです」
3. 非公知性(ひこうちせい) 「そして三つ目が『非公知性』です。これは、『その情報が世の中に知られていないこと』、つまり、一般に入手できない情報であることです。例えば、インターネットで検索すれば誰でも手に入る情報や、競合他社が独自に公開している情報は、『非公知』とは言えません」
「なるほど……。俺たちの顧客リストは、当然、一般公開なんかしてないっすよ!」
「はい。ただ、単に公開していないだけでなく、業界内での常識的な範囲を超えて、そのリストを入手するのが難しいという状況が必要です。例えば、特定の業界の企業名リストであれば、市販されているものもあります。そうではなく、個別の担当者の連絡先や、具体的な取引履歴、顧客ごとのニーズといった、独自に収集・分析した情報であれば、非公知性が認められやすいでしょう」
【神崎の補足解説】不正競争防止法とは?
「特許」「意匠」「商標」「著作権」といった通常の知的財産権では保護しきれない、企業間の公正な競争を阻害する行為を幅広く規制する法律です。
知的財産権が「新たな創造」を保護する側面が強いのに対し、『不正競争防止法』は、他社の「営業上の信用」や「営業秘密」といった、努力によって築き上げられた無形の価値を守ることを目的としています。 これがビジラボ(スタートアップ)において具体的にどう影響するか?
- 営業秘密の保護: 上記三要件を満たす情報を不正に取得・使用・開示する行為を禁止し、差止請求や損害賠償請求を可能にする。
- 商品形態の模倣の防止: 他社の商品の形態をデッドコピーするような行為(デッドコピーは著作権では保護されにくい場合も)を規制。
- 誤認惹起行為の規制: 自社の商品やサービスが他社のものと混同されるような表示を行う行為を禁止(例: 他社の有名な商品に似たネーミングやパッケージデザインを使う)。
- 信用毀損行為の規制: 競争相手の信用を害する虚偽の事実を流布する行為を禁止。
つまり、この法律は、通常の知財法ではカバーできない「グレーゾーン」における不公正な競争行為から、自社の利益と信用を守るための、非常に重要な「守りの法律」なのです。
「今のビジラボのケースだと、山本さんが持ち出した『顧客リスト』は、有用性も非公知性も満たしている可能性は高いでしょう。問題は、やはり『秘密管理性』です。もし、十分な秘密管理措置が取られていなかった場合、残念ながら、山本さんの行為を『不正競争防止法』上の『営業秘密侵害行為』として訴えるのは難しいかもしれません」
神崎さんの言葉は、俺の胸に重くのしかかった。せっかく苦労して築き上げた顧客リストなのに、俺の管理不足で法律上は「秘密」として扱われないかもしれないなんて。
「もし、万が一、その『秘密管理性』が認められなかったら、俺たちは山本にやりたい放題されても、何もできないってことっすか!?」
「いえ、全くできないわけではありません。例えば、退職時に交わした秘密保持契約があれば、その契約違反として損害賠償請求をする道はあります。ただし、その場合も、契約で具体的にどのような情報を秘密として指定し、その情報を守る義務を負わせていたかが問われますし、秘密管理性が低い情報であるほど、裁判で勝訴するのは困難になります。また、雇用契約上の誠実義務違反を問うことも可能ですが、これも証拠次第です」
神崎さんは少し間を置いて、続けた。 「今回のケースは、山本さんがビジラボのサービスに酷似したサービスを展開している点も問題です。これは『商品形態の模倣』にあたる可能性があります」
【神崎の法務レクチャー】商品形態の模倣とは?
「『商品形態の模倣』とは、他人の商品の形態を模倣した商品を販売、貸与、輸出入などする行為を指します。これは、先ほど説明した『不正競争防止法』で規制される不正競争行為の一つです」
【神崎の補足解説】商品形態の模倣とは?
他人の商品の形態(形状、模様、色彩など、商品の外観)をデッドコピーしたり、非常に似せて作ったりする行為を指します。 これがビジラボ(スタートアップ)において具体的にどう影響するか?
- デザインの保護: 意匠権で保護されていないデザインや、著作権で保護されにくい機能的なデザインなどを、他社が安易に模倣してくるのを防ぐことができます。
- 識別力の保護: ユーザーが「あれ?これビジラボのサービス?」と誤解するほど似ている場合、消費者の混乱を防ぎ、自社の信用を守る役割があります。
ただし、模倣品が日本国内で販売された日から3年以内に、かつ、その商品の形態が「周知」になっていること、といった条件があります。また、機能美など、形態がその商品の機能を確保するために不可欠な場合は、模倣の対象外となることがあります。
「ビジラボのSaaSのUIデザインや、サービスの構成が、山本さんの会社と酷似している、という話でしたね。もし、それが一般消費者に広く認知されたビジラボのサービス形態を模倣していると認められれば、この『商品形態の模倣』として、差止請求などが可能です」
俺は少し光明が見えた気がした。顧客リストは危ういが、少なくともサービスの見た目に関しては、何かしら戦えるかもしれない。 「じゃあ、山本はビジラボのサービス形態を真似してるってことで、訴えられますか?」
神崎さんは慎重に言葉を選んだ。「それは、実際にどれだけ似ているか、そしてビジラボのサービス形態が『周知』になっているか、さらに模倣品が3年以内に販売されたか、といった具体的な証拠と状況によります。サービスの模倣も、法律上の要件は厳しく、単純に『似ている』だけでは認められません」
俺はまた、現実の厳しさを突きつけられた。法律は、感情や直感で動くものではない。全ては「要件」と「証拠」なのだ。
青木の理解と決意:『秘密』は「守るべき資産」へと変わる
神崎さんの解説を聞き終え、俺は頭を抱えた。 「要は……俺たちの『努力の結晶』である顧客リストは、俺がちゃんと『秘密』として管理してなかったから、山本に持ち出されても、法律上は簡単に守ってもらえないかもしれないってことっすよね……?」
神崎さんは静かに頷いた。「簡潔に言えば、その認識で合っています。ビジネスにおける『秘密』は、自然に保護されるものではありません。それは、あなたが意識的に『秘密』として扱い、管理し、守り抜こうとする努力があって初めて、法的な『営業秘密』という強力な資産へと変わるのです」
俺は、悔しさで唇を噛んだ。これまで、法務なんて「トラブルが起きたら弁護士に相談すればいい」くらいにしか考えていなかった。知財も、特許や商標を取れば万事解決だと思っていた。でも、目に見えない情報、日々の業務で蓄積される「秘密」こそが、スタートアップの生命線であり、それを守るためには、経営者自身の意識と、地道な管理体制が不可欠だったのだ。
「俺は……なんて無知だったんだ……」
自分の杜撰な管理体制、そして法律に対する無関心さが、今回の事態を招いたのだと痛感した。山本への怒りよりも、自分自身への不甲斐なさが募る。
しかし、いつまでも落ち込んでいるわけにはいかない。俺はビジラボの社長だ。
「神崎さん、斉藤さん……。俺は、今回のことを絶対に無駄にしない。山本への法的措置は、それが可能かどうか、弁護士さんと相談して慎重に進めます。でも、それよりも先にやるべきことがある」
俺は顔を上げ、二人の目を見た。
「これからは、ビジラボの全ての『秘密』を、徹底的に『営業秘密』として管理します。顧客リストだけじゃない。開発中の技術情報、事業計画、人事データ……。全部です」
斉藤が力強く頷いた。「はい、社長。私も経理・総務の立場から、秘密保持規程の作成、情報管理システムの再構築、従業員への秘密保持教育など、できる限りのことを進めます」
「頼む、斉藤さん。神崎さん、俺、本当にやります。法律は、俺たちの情熱を守るための盾であり、時には武器にもなる。そう教えてもらったのに、俺はまだその重みを理解していませんでした。でも、もう違う。ビジラボの未来のために、この『秘密』を、何が何でも守り抜きます」
解決への一歩と小さな成長:未来への布石!『営業秘密』管理体制の構築へ
山本に対する具体的な法的措置については、神崎さんと相談し、まずは弁護士に現状を説明し、証拠の有無を含めて慎重に検討することになった。もしかしたら、法的に「営業秘密侵害」を立証するのは難しいかもしれない。だが、これで終わりではない。
今回の件で、俺は法律の重要性を、痛いほど理解した。特に、目に見えない「情報」の価値と、それを守るための「管理」の重要性だ。
オフィスに戻ると、斉藤が早速、情報セキュリティポリシーの草案を引っ張り出し、秘密保持誓約書のテンプレートを修正していた。
「社長、クラウドストレージのアクセス権限、今日中に全て見直しましょう。従業員には、個別に秘密保持に関する研修も実施します。まずは、今ある『秘密』の棚卸しから始めましょう」
「ああ、頼む、斉藤さん!俺も、もっと勉強する。この『不正競争防止法』だけじゃない。会社の情報を守るために、もっといろんな法律があるはずだ」
神崎さんの言葉が頭をよぎる。「法律を知らないことは、地図もコンパスも持たずに嵐の海へ出航するのと同じです」。 まさにその通りだ。俺はこれまで、羅針盤を持たずに、情熱と勘だけで荒海を進んできた。これからは違う。法務という羅針盤を手に、ビジラボという船を安全な航海へと導く。その決意を胸に、俺は新たな学びへの一歩を踏み出した。
法務、マジでヤバいけど、やるしかねぇ……。俺たちの『秘密』を、何が何でも守り抜くために。
2. 記事のまとめ
📚 今回の学び(神崎メンターの総括)
[学習ポイント1]: 企業の「秘密」が法的な「営業秘密」として保護されるには、「秘密管理性」「有用性」「非公知性」という三要件を全て満たす必要があります。特に「秘密管理性」が不十分なケースが多いです。
[学習ポイント2]: 営業秘密は、特許権などのように独占権を与えるものではなく、不正に取得・使用・開示された場合に差止請求や損害賠償請求ができる「守りの権利」です。
[学習ポイント3]: 『不正競争防止法』は、特許や著作権では保護しきれない、公正な競争を阻害する行為(営業秘密侵害、商品形態の模倣、信用毀損など)から企業を守る重要な法律です。
今週のリーガルマインド(神崎の教訓) 「秘密は、管理されて初めて『資産』となる。怠れば、それはただの『漏洩リスク』に過ぎません。あなたの努力の結晶を守り抜くには、常に『秘密』として扱う覚悟と、具体的な行動が伴わなければならないのです」
💭 青木の気づき(俺の学び)
- 「秘密」って、ただ隠しとけばいいってものじゃないんだな。「法的に秘密」だって認められるには、ちゃんとルールに則って管理しないと意味がない。俺たちの顧客リストが、まさか「営業秘密」じゃないかもしれないなんて、ゾッとした。
- 特許とか著作権とか、目に見えるものだけが「知財」だと思ってたけど、営業秘密みたいに、目に見えない「情報」も、ビジネスの根幹を支える大事な資産なんだ。これを守るには、経営者である俺が、一番意識を変えて、率先して管理体制を整えなきゃいけない。
3. 次回予告
ビジラボは、今回の営業秘密流出問題を教訓に、情報管理体制を強化。事業は順調に拡大し、ついに大手企業との大型契約に漕ぎ着けようとしていた。しかし、その大手企業からの契約条件は、あまりに理不尽なものだった。「単価を3割下げろ」「無償で追加開発しろ」……。青木は泣き寝入りしかけるが、神崎が「それは『優越的地位の濫用』。下請法で戦えます」と助言する。まさか、こんな理不尽な要求がまかり通るなんて……!
次回: 第42回 大企業と戦う! 下請法と優越的地位の濫用

