担保の王様「抵当権」。銀行がゼッタイに逃さない仕組み

メンバー紹介

ここで学べる学習用語:質権, 抵当権, 根抵当権

第47回: 担保の王様「抵当権」。銀行がゼッタイに逃さない仕組み

俺たち「ビジラボ」は、少しずつだけど、確実に前に進んでいた。サービスの利用者も増え、エンジニアの田中もバリバリ開発を進めてくれている。でも、事業をさらに加速させるためには、圧倒的に資金が足りない。

「社長、そろそろ本腰入れて銀行融資を考えないと、システム開発の先行投資が厳しいですよ」

経理の斉藤さんの言葉は、いつも俺を現実に引き戻す。わかってる、わかってるよ。これまでも「社長からの借入金」とか「ファクタリング」とか、資金繰りについては散々学んできた。でも、銀行から本格的な事業資金を借りるなんて、正直まだ遠い世界の話だと思ってたんだ。


融資シミュレーション、突然の難問!

「よし、斉藤さん。じゃあ、まずは模擬でいいから、銀行との面談をシミュレーションしてみよう!神崎さんも付き合ってくれますよね?」

俺は意気揚々とそう提案した。斉藤さんは少し眉をひそめながらも頷き、神崎さんはいつもの冷静な表情で、俺の前の椅子に腰かけた。

「青木さん、銀行との融資交渉は、あなたの情熱だけでは乗り切れませんよ。彼らが何を求めているのか、何にリスクを感じるのかを理解しておく必要があります」

神崎さんの言葉は、いつも俺の鼻っ柱をへし折る。でも、それこそが俺に必要なんだ。

「じゃあ、私が銀行担当者役を務めますね」と神崎さん。その声色まで、なんだか冷徹なプロの銀行員に見えてくるから不思議だ。

「ビジラボさんの事業計画、拝見しました。非常に将来性があると感じています。つきましては、融資枠として年間5000万円ほどご提案したいのですが…」

5000万円!思わず唾を飲み込んだ。すげえ、マジか!想像以上の金額に、俺の顔はにやけてしまう。これで一気に開発を進められる!

「ただし、青木社長。一点お伺いしたいのですが、担保として差し入れられるものは何かお持ちでしょうか?」

担保……。その言葉を聞いた瞬間、俺の頭の中は真っ白になった。担保って、不動産とかのことだよな?家とか土地とか。俺、そんなもん持ってねぇよ!もちろん、ビジラボだって、まだインキュベーションオフィスを借りているだけで、自社ビルなんて夢のまた夢だ。

「えっと……担保、ですか?ウチ、まだ自社ビルとか持ってないんで、正直なところ…」

しどろもどろになる俺を見て、神崎さんは静かに首を振った。

「青木さん。銀行にとって、融資は『投資』であると同時に『リスク』です。そのリスクを最小限に抑えるための仕組みが『担保』です。前回、前々回と、『人的担保』や『物的担保』について学びましたよね」

確かに、保証人とか、在庫を担保にする話とか、色々聞いてきた。でも、銀行が真っ先に聞いてくる「担保」って、やっぱりあの「不動産」のイメージなんだよな。

「はい、まあ、人的担保とか、譲渡担保とか…」

俺がそう言いかけると、神崎さんは再び、銀行担当者の口調で言った。

「そうですね。それらも有効な担保ではありますが、やはり銀行が最も堅牢だと考えるのは、不動産を対象とした『抵当権』です。青木社長、もしご自身の不動産をお持ちであれば、まずそのご検討をお願いしたいのですが」

抵当権。また新しい言葉が出てきた。しかも「最も堅牢」って。俺には縁のない話に聞こえるが、この「抵当権」が、銀行融資の肝になっていることは、その言葉の響きだけで理解できた。どうすればいいんだ、俺は?ビジラボの未来のためにも、この「担保」という仕組みを、もっと深く理解する必要がある。


神崎メンター、担保の「序列」を語る

俺の困惑を見透かすように、神崎さんは模擬面談を一旦中断し、本来のメンターの顔に戻った。

「青木さん、『抵当権』という言葉に、どういうイメージをお持ちですか?」

「うーん、なんか、銀行が不動産をガッチリ押さえる、みたいな。借りたお金が返せなくなったら、その不動産を競売にかけられて、全部持ってかれちゃう…みたいな?」

「おおよそ合っていますね。ただ、その理解ではまだ表面的なものです。なぜ銀行がそこまで『抵当権』を重視するのか。そして、以前学んだ『質権』との違いを理解することが、今回のポイントになります」

神崎さんはホワイトボードに、担保の種類を書き出した。

「担保には大きく分けて、前々回学んだ『人的担保』(保証、連帯保証)と、前回、今回で学ぶ『物的担保』があります。そして、この物的担保の中でも、対象とする『物』と『担保の形態』によって、いくつかの種類に分かれるのです」

「はい、それは何となく…在庫を担保にする『譲渡担保』とか、俺の奥さんに連帯保証人になってもらうとか…」

「そうですね。しかし、その中でも銀行にとって、特に不動産を対象とする『抵当権』は特別な位置づけにあると言っていいでしょう。なぜなら、その『強さ』と『安定性』において、他の追随を許さないからです」

「強さ…ですか?質権と、何が違うんですか?」

俺は一番気になっていたことを質問した。「質権」は、質屋に時計を預けるみたいなイメージで、俺にも理解しやすい概念だった。でも「抵当権」は、俺の持つ不動産が銀行に「取られる」わけじゃない。利用しながら担保にできる、その違いがよくわからなかった。

「良い疑問ですね。ではまず、対比として『質権』から説明しましょう。そして、なぜ『抵当権』が『担保の王様』と呼ばれるのか、その秘密に迫っていきます」


銀行が「ゼッタイに逃さない」抵当権の全貌

神崎さんはホワイトボードに図を描きながら、ゆっくりと語り始めた。

【神崎の法務レクチャー】

「まず、『質権(しちけん)』についてです。これは、あなたがイメージした『質屋』の取引を思い浮かべると分かりやすいでしょう。例えば、あなたが急にお金が必要になったとき、大切な時計を質屋に預けてお金を借りるとします」

「はい、ありますね、そういうお店」

「その時、質屋さんはあなたから時計を預かり、占有しますよね。この『物を占有する(手元に置く)』ことによって、担保としての機能を果たすのが質権の基本的な形です。あなたが借金を返済すれば、時計は返ってきますが、返済できなければ質屋がその時計を売却して、貸したお金を回収する、という仕組みです」

「なるほど、じゃあ、前回学んだ『留置権』と似てるんですか?」

「鋭いですね、青木さん。性質としては似ていますが、『質権』は『契約』によって設定される権利である点が大きく異なります。目的物の占有を債権者が持つことで、他の誰もその物を勝手に持ち出すことができなくなる。これが質権の強みの一つです。動産(時計、車など)や、最近では債権(売掛金など)に対しても設定可能です」

「ふむふむ。でも、ビジラボが銀行から融資を受ける時、会社のサーバーとか開発ツールとか、そういう大事なものを銀行に預けるわけにはいかないですよね。預けちゃったら仕事できないし」

「その通りです。そこで登場するのが、今回の主役である『抵当権(ていとうけん)』です。抵当権は、質権と決定的に異なる点があります。それは、債務者が担保として提供した物を、その手元に置いて使い続けることができるという点です。特に不動産の場合、その物件を担保に入れたからといって、銀行が鍵を持ってきて『今日から使わせません』ということはありません。あなたは自宅に住み続けられますし、会社であれば、そのオフィスで事業を継続できるのです」

俺は目からウロコが落ちる思いだった。そうか、抵当権って、取られるだけじゃないのか。使わせてもらいながら、いざという時の担保になる。これは、質権とは全く違う、まさにビジネスのための担保じゃないか!

「『抵当権』は、主に不動産に対して設定されます。なぜ不動産かというと、その価値が比較的安定しており、かつ『登記』という制度によって、誰が見てもその不動産に抵当権が設定されていることが一目瞭然になるからです」

【神崎の補足解説】抵当権(ていとうけん)とは?

債務者(お金を借りた人)または物上保証人(自分の不動産を担保提供した人)が、その不動産を占有したまま利用することを許し、債務不履行(借金を返せないなど)があった場合に、その不動産を競売などで換価し、他の債権者よりも優先して弁済を受けることができる権利。動産を占有する「質権」とは異なり、不動産を使い続けられる点が最大の特徴であり、企業の資金調達において非常に重要な法的概念です。

「抵当権が設定されると、法務局でその旨が『登記』されます。これは『この不動産には銀行の抵当権がついてますよ』と世の中に公開する効果があります。もしビジラボがこの不動産を他社に売却しようとしても、買い手は登記を見れば抵当権の存在を知ることができますよね。これにより、銀行は将来的に債務が弁済されなかった場合に、その不動産から優先的に貸したお金を回収できる権利を確保できるのです」

「優先的に、ってのがミソなんですね…」

「そうです。例えば、青木さんが家を担保に1億円借りたとします。その後、別の金融機関からも追加で5000万円借り、さらに知り合いからも個人的に2000万円借りていたと。しかし、事業が傾いて、すべての借金が返せなくなったとしましょう。もしその家を売却して1億円しか手に入らなかった場合、最初に抵当権を設定した銀行が、その1億円を他の誰よりも優先して回収できるのです」

俺はぞっとした。それは、まさに「銀行がゼッタイに逃さない」仕組みだ。

「そして、抵当権と並んで重要なのが、『根抵当権(ねていとうけん)』です。これも不動産を対象とする担保なのですが、少し性質が異なります」

「根抵当権…?抵当権の『根っこ』ってことですか?」

「イメージとしては近いですね。特定の債務だけでなく、継続的な取引から生じる不特定の債務を、あらかじめ定めた『極度額』の範囲内で包括的に担保するのが根抵当権です」

「不特定の債務…?どういうことっすか?」

「例えば、銀行がビジラボに運転資金として、年間を通して必要な時に貸し付けたり、返済したりを繰り返すような取引を想像してください。その都度、抵当権を設定し直すのは非常に手間がかかります。そこで、あらかじめ『この不動産で、極度額3億円までを担保します』と設定しておくのです」

【神崎の補足解説】根抵当権(ねていとうけん)とは?

継続的な取引関係から発生する不特定の債務を、あらかじめ定めた「極度額」の範囲内で担保する目的で設定される抵当権。通常の抵当権が「特定の借金」を担保するのに対し、根抵当権は「将来発生する可能性のある複数の借金」を包括的に担保します。事業資金の当座貸越や継続的な融資枠設定の際に用いられ、金融機関が柔軟な融資を行う上で不可欠な担保形態です。

「そうすると、その3億円の枠の中で、ビジラボはいつでも借りたり返したりできるんです。返済によって一度借金がゼロになっても、極度額の範囲内であれば、担保としての効力は失われず、また新たに借り入れることができる。つまり、何度も利用できる『回転式』の担保と考えると分かりやすいでしょう」

「なるほど!じゃあ、事業が大きくなったり小さくなったりする中で、継続的に資金が必要になるスタートアップには、こっちの方が便利ってことっすか?」

「その通りです、青木さん。まさにそのために根抵当権という制度が存在します。特に、銀行が企業に対して『コミットメントライン契約』のような融資枠を設定する場合などに、この根抵当権が用いられることが多いですね。金融機関にとっては、いちいち担保設定し直す手間が省けますし、企業にとっても必要な時に必要な金額を借りられるため、非常に効率的です」

神崎さんの解説を聞いているうちに、俺は担保の奥深さに圧倒されていた。単に「借金が返せなくなったら取られる」というだけじゃなく、それぞれの担保が、異なるビジネスシーンやリスクヘッジのニーズに合わせて設計されている。特に抵当権や根抵当権は、銀行と企業が長期的な関係を築く上で、まさに土台となる仕組みなんだ。


不動産なき俺たちに、担保は夢か?

「ありがとうございます、神崎さん!質権、抵当権、根抵当権…。めちゃくちゃよくわかりました!要は、銀行から大金を借りるなら、不動産を担保に入れる『抵当権』が最強ってことっすね!」

俺はそう言って、深く頷いた。これで銀行との融資交渉もバッチリだ!…いや、待てよ。

「…でも、神崎さん」俺は一転して、しょんぼりした顔になった。「俺、不動産なんて持ってないっすよ。ビジラボも、まだ自社ビルなんて夢のまた夢だし…」

そう。最強の担保があることを知ったところで、それが自分たちの手元になければ意味がない。まるで、すごい必殺技を教えてもらったのに、その技を使うための武器を持っていないような感覚だった。

「青木さん、ご安心ください。だからこそ、前回、前々回の話に繋がるのです」

神崎さんは俺の絶望を見透かしたように、冷静に続けた。

「不動産を所有していないスタートアップにとって、確かに抵当権は現実的な選択肢ではないかもしれません。しかし、だからといって担保が取れないわけではない。前々回に学んだ『人的担保(保証・連帯保証)』。そして前回、少し触れた『動産・債権を担保にする方法』。これらもまた、銀行や投資家がリスクを評価し、融資や投資を決める上で非常に重要な要素となります」

俺はハッとした。そうか、学びってのはこうやって繋がっていくんだ。担保の王様「抵当権」を知ることで、他の担保の価値や位置づけが、よりはっきりと見えてくる。不動産がないというハンデをどう埋めるか。連帯保証人になってもらうのか、それともビジラボの「在庫(動産)」や「売掛金(債権)」を担保として差し出すのか。

「つまり、俺たちの状況に合わせて、どんな担保の組み合わせが最適なのかを考えろ、ってことっすか…」

「その通りです。銀行は、決して『抵当権がないから融資しない』とは限りません。あなたの事業計画、キャッシュフロー、そして提供できる他の担保の種類や強度を見て、総合的に判断します。そして、もし不動産があれば、他の担保を補完する形で、より有利な条件で融資を引き出せる可能性が高まる、というわけです」

俺は、自分の無知に頭を抱えながらも、同時に、これまでの学びが一本の線で繋がっていく感覚に興奮していた。


未来を見据え、成長する担保戦略

今回の神崎さんの解説で、俺は「担保」というものが単なる「万が一の時の保険」ではないことを痛感した。それは、会社の信用力そのものであり、未来の資金調達戦略を大きく左右する、極めて重要な経営要素だったんだ。

今はまだ不動産なんて持っていないけれど、いつかビジラボが大きく成長し、自社ビルを構える日が来たら…。その時は、胸を張って「抵当権を設定してください!」と銀行に提案できる、そんな経営者になっていたい。

「神崎さん、マジで勉強になります!不動産担保の重要性がこんなにデカいとは…。でも、だからこそ、今はまだないリソースで、どう信用を勝ち取るか、頭をひねらないとって思いました!」

「良い気づきですね、青木さん。知識は、知っているだけでは意味がありません。それをどう『戦略』として活かすか。それが経営者の腕の見せ所です」

「はい!とりあえず、今は目の前の資金調達に向けて、神崎さんに教わった他の担保の知識をフル活用するっす!いつか、デカい不動産を担保に、さらにデカい事業を動かしてやる!」

俺は、未来のビジラボを想像しながら、再び熱い決意を胸に刻んだ。法律は、俺たちの事業を阻む壁じゃない。むしろ、その壁を乗り越え、さらに高く跳ぶための、強力な「道具」なんだ。


2. 記事のまとめ

📚 今回の学び(神崎メンターの総括)

  • 【質権】 は、動産や債権などを債権者に占有(引き渡し)させることで、優先的に弁済を受ける担保物権。質屋の取引が典型例。

  • 【抵当権】 は、不動産を担保としながらも、債務者がそれを占有・利用し続けることができる担保物権。登記によってその存在が公示され、債務不履行時に優先的に弁済を受けられるため、銀行融資の「王様」として非常に重視される。

  • 【根抵当権】 は、継続的な取引から生じる不特定の債務を、あらかじめ定めた「極度額」の範囲内で包括的に担保する抵当権の一種。運転資金など、借入と返済を繰り返すような柔軟な資金調達に適している。

  • 担保の知識は、企業の信用力を高め、資金調達戦略を有利に進める上で不可欠な経営知識である。

今週のリーガルマインド(神崎の教訓) 「担保は、あなたの事業が直面するリスクへの備えであると同時に、あなたの会社が持つ『信用力』を数値化し、未来の成長を加速させる『燃料』でもあります。その燃料をどこから、どう調達し、どう管理するか。それが経営戦略の核心です。」

💭 青木の気づき(俺の学び)

  • 「抵当権」って言葉は知ってたけど、まさかこんなに強力で、しかも不動産を使い続けながら担保にできるって知らなかった。銀行が求めてくる理由が、よーく分かったぜ。
  • 今は不動産なんてないから、直接は関係ないって思ってたけど、この最強の担保の存在を知ることで、逆に「じゃあ、俺たちはどうやって信用を積み重ねていけばいいのか」って、よりリアルに考えるようになった。人的担保、動産・債権担保…俺たちの武器は、まだあるはずだ!

3. 次回予告

今回の融資シミュレーションで、青木は不動産担保の重要性を痛感した。しかし、ビジラボにはまだ不動産がない。それでも資金調達を諦めるわけにはいかない青木は、これまで学んだ知識を総動員し、新たな担保戦略を神崎に相談する。それは、ビジラボの「在庫」や「売掛金」といった動産や債権を、銀行に差し出すというアイデアだった。

「不動産がないなら、ウチにあるモノで勝負するしかないっす!」と意気込む青木に、神崎は「それがまさに『譲渡担保』の考え方です」と、さらに踏み込んだ担保戦略の具体論を語り始める。

次回: 第48回 動産・債権を担保に取る! 譲渡担保と仮登記担保

\ 最新情報をチェック /