もし俺が死んだら、この会社(株式)どうなるの?「法定相続」の恐怖

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ここで学べる学習用語:親族、婚姻、離婚、親子、相続、法定相続人、法定相続分

第62回: 「もし俺が死んだら…」会社(株式)はどうなる?「法定相続」の恐怖


1. 死を意識した一瞬の悪寒。俺の会社はどうなる?

それは、ほんの一瞬の出来事だった。

いつものように自転車でオフィスに向かっていた俺は、交差点でふと、スマホの通知に目を奪われた。次の瞬間、右から飛び出してきた電動キックボードと、あと数センチというところで接触を避けた。ギリギリで急ブレーキを踏んだが、バランスを崩してアスファルトに片膝をつく。右肘には軽い擦り傷ができたものの、大事には至らなかった。

「うわ、マジで危なかった……!」

心臓がドクドクと不規則に脈打つ。アスファルトに転がったスマホを拾い上げながら、全身にじんわりと冷たい汗が滲んだ。普段は「俺は不死身だ!」なんて冗談を言っているが、あの瞬間、本当に「死」というものが頭をよぎったのだ。

その時、ふと、漠然とした、しかしとてつもなく重い不安が胸に広がった。

「もし、俺が今、この場で死んでいたら……ビジラボは、どうなってたんだろう?」

俺が創業し、俺が社長を務め、俺の情熱と田中や斉藤の頑張りでようやく軌道に乗り始めたビジラボ。そのビジラボの全てを握る、唯一の株主は俺だ。当然、俺の身に何かあれば、会社もただじゃ済まないだろう。でも、具体的にどうなるのか。

オフィスに着き、斉藤さんに軽い擦り傷を見せながら、今日のヒヤリハットを話した。

「いやー、マジでヤバかったんすよ。死ぬかと思った。で、ふと思ったんすけど、もし俺が死んだら、この会社ってどうなるんすかね?」 「え…社長、冗談でもそんな物騒なこと言わないでくださいよ」

斉藤さんは顔をしかめたが、すぐに真剣な表情になった。 「でも、確かに大事なことですよね。社長が何かあったら、一番困るのはビジラボですから…」 「でしょ? でも、俺としては当然、俺の嫁さんが全部継いでくれると思ってたんですけどね。株も、社長の座も、全部アイツが」

俺は軽く笑いながら言った。俺の妻は、俺とは正反対で物事を冷静に考えるタイプだ。経営の知識こそないが、いざとなったらちゃんとやってくれるだろう、なんて勝手に考えていた。

しかし、斉藤さんの表情は依然として曇ったままだ。 「うーん…社長のお気持ちは分かりますけど、法律的にはそう単純ではないかと…。私では、ちょっと明確なことは申し上げられません。神崎さんに相談してみませんか?」

斉藤さんの言葉に、俺は少し面食らった。え、嫁さんが継ぐのが当然じゃないの? 何か複雑なことでもあるのか? 頭の中に、これまで神崎さんに教わってきた様々な法律用語が駆け巡ったが、「相続」に関する話は一度も出たことがなかった。俺は漠然とした不安を抱えながら、神崎さんのオフィスへと向かった。

2. 「その認識は致命的です」メンター神崎の冷徹な一言

神崎さんのオフィスは、いつも通り静かで清潔だった。俺はノックをして中に入り、今日の出来事を掻い摘んで話した。もちろん、その後の「もし俺が死んだら」という疑問もストレートにぶつけた。

「それで、もし私が亡くなったら、ビジラボの株式や経営権は、当然私の妻が全部引き継いでくれるんですよね?」

俺がそう言い終わるか終わらないかのうちに、神崎さんはゆっくりと視線を上げた。その目は、獲物を冷静に見定める猛禽類のように鋭い。

「青木さん、その認識は『致命的』に間違っています」

神崎さんの言葉は、俺の頭に冷水を浴びせかけるようだった。致命的? そんなにまで言われるなんて。俺は口をあんぐり開けたまま、言葉を失った。

「あなたの個人的な感情や希望で、会社の未来が決まるわけではありません。ましてや、あなたの『もしも』の事態においては、民法が定める『相続』のルールが厳然と適用されることになります」 「相続…?」

聞いたことはある。親が亡くなったら、子供が財産を継ぐとか、そういうやつだろ? でも、それはあくまで個人の財産の話で、会社の株式もその対象になるのか?

「ええ、相続です。そして、あなたが亡くなった場合、誰があなたの財産、すなわちビジラボの株式をどれだけ引き継ぐかについては、『法定相続人』という概念と、『法定相続分』という割合が関わってきます。それは、あなたの希望とは全く別の話です」

「ホウテイソウゾクニン? ホウテイソウゾクブン?」

俺は聞いたこともない専門用語に頭がフリーズした。なんだそれ? 何やらものすごくヤバそうな響きだ。俺の会社が、俺の死後、俺の意思とは関係なく勝手に分解されてしまう、とでも言うのか? 恐怖で全身の毛穴が開くような感覚に陥った。

「はい。そして、このルールを無視したり、知らなかったりすると、残されたご家族はもちろん、ビジラボの経営そのものが揺らぎかねません。想像してみてください。あなたの会社の株式が、バラバラに分散してしまうリスクがあるのですよ」

株式がバラバラ? そんなことになったら、ビジラボはどうなってしまうんだ? 俺は生きた心地がしなかった。神崎さんの言葉はいつも的を射ているが、今回は特に心臓を鷲掴みにされるような重みがあった。

3. 神崎の法務レクチャー:会社を蝕む「法定相続」の落とし穴

「青木さん、ご自身の身に何かあった場合、会社の株式を含めたあなたの全ての財産は、民法で定められたルールに従って相続人に引き継がれることになります」

神崎さんは俺の顔色を見ながら、いつもよりゆっくりとした口調で説明を始めた。

「まず、法律が定める『親族』という概念について、少し確認しましょう。民法では、親族は『6親等内の血族』と『3親等内の姻族』、そして『配偶者』を指します。血族とは血のつながりがある人、姻族とは配偶者の血族、つまり義理の家族のことですね。相続においては、特に血族と配偶者が重要になります」

「血族…姻族…。親族って、結構広いんすね」 「ええ。そして、その中で、相続権を持つ人、すなわち『法定相続人』には、厳格な順位と、それぞれが受け取れる『法定相続分』という割合が定められています」

俺はゴクリと唾を飲み込んだ。ここからが本番だ。

「まず、配偶者は常に法定相続人となります。これは揺るぎません。ただし、離婚してしまえば、元配偶者には相続権はありませんのでご注意を。そして、配偶者以外の相続人には順位があります」

神崎さんは指を折りながら、その順位を説明してくれた。

第一順位は『子』です。 青木さんに実子がいれば、その子が相続人になります。仮に子が複数いれば、均等に相続分を分け合います。もし子が既に亡くなっている場合は、その子の子、つまり孫が代わりに相続人になります。これを『代襲相続』と言います」

「なるほど…。じゃあ俺に子供がいなければ…?」 「良い質問(疑問)ですね。青木さんのように、もし子がいらっしゃらない場合、相続権は第二順位である『直系尊属』に移ります」

「直系尊属…?」 「はい。あなたの父母、祖父母など、あなたより上の世代の直系の血族のことです。もしご両親がご健在であれば、彼らが法定相続人となります」

「え、じゃあ俺の親父とオフクロにも、俺の財産がいくってことっすか!?」

俺は思わず前のめりになった。まさか、そんなことになるなんて想像もしていなかった。

「その通りです。そして、もし直系尊属もいらっしゃらない場合は、第三順位である『兄弟姉妹』が相続人となります。甥や姪が代襲相続することもありますね」

「へ、へえ…。結構いろんな人が絡んでくるんですね…」

俺は頭の中で、自分の家族構成を必死に思い描いた。俺は既婚で、子供はまだいない。両親は二人とも健在だ。ということは……。

神崎さんは、そんな俺の思考を読み取ったかのように続けた。

「では、青木さんのケースで具体的に見ていきましょう。現在、あなたにはお子さんがいらっしゃらない。そして、ご両親はご健在。配偶者である奥様もいらっしゃいますね。この場合、法定相続人は奥様とご両親になります」

「まさか…」

俺は背筋に冷たいものが走るのを感じた。

「そう、まさに『まさか』なのですよ。では、それぞれの『法定相続分』、つまり相続財産をどれだけ受け取るかの割合についてもご説明します」

神崎さんはテーブルに置いてあったメモ帳をサッと取り上げ、ペンを走らせた。

【神崎の補足解説】法定相続分とは?

法律で定められた、各相続人が受け取る相続財産の割合。遺言がない場合や、遺言があってもその内容が法定相続分を侵害している(遺留分)場合に適用される。これはビジラボのようなスタートアップの株式承継において、経営権の分散リスクに直結する重要な概念である。

「青木さんのケースでは、配偶者である奥様が相続財産の3分の2。そして、ご両親がそれぞれ3分の1を均等に分け合う形になります。つまり、父親が6分の1、母親が6分の1ですね」

「ええええええええええ!?」

俺は椅子から転げ落ちそうになった。全身に鳥肌が立ち、心臓が爆音で鳴り響く。

「ま、マジっすか!? じゃあ、俺が持ってるビジラボの株式100株は…奥さんに約66株、親父に約17株、オフクロに約17株ってことですか!? 三人にバラバラに分散されちゃうってことですか!?」

「はい。その通りです。それが、遺言がない場合の法定相続の原則です。そして、これは非常に重要な点ですが、相続は、会社が持つ『株式』に対しても適用されます。つまり、ビジラボの経営権の基盤であるあなたの株式が、あなたの死後、法律の定めに従って複数の人物に分散される、ということになります」

神崎さんの言葉は、俺にとってまさに青天の霹靂だった。会社の株式が、まるで当たりくじのように家族に分散されるなんて。

「法的には、相続はプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も引き継がれます。なので、相続人は『相続放棄』という選択肢を取ることもできますが、それはまた別の話になります」

「いや、ま、待ってください! 俺はビジラボの株式を誰にも渡したくない! 奥さんに全部継いでほしい! もし親父とオフクロに渡ったら、彼らは経営には全く口を出す気はないだろうけど、でも、株式が分散するってことは、株主が増えるってことですよね? それって、将来的にヤバくないですか?」

俺の頭の中は、パニック状態だった。これまで「俺の会社だ!」と豪語してきた俺にとって、会社の所有権が勝手に分散されるなど、悪夢以外の何物でもなかった。

「青木さん、落ち着いてください。おっしゃる通り、株式が分散するということは、単に所有権がバラけるだけではありません。会社法上、株主は様々な権利を持っています。例えば、株主総会での議決権、配当を受け取る権利、帳簿の閲覧請求権などです」

【神崎の補足解説】株式の分散リスク

スタートアップにおいて、創業者の株式が複数の相続人に分散すると、経営上の意思決定に支障をきたす可能性がある。特に、相続人の中に会社の経営に関心がなかったり、知識がなかったりする者がいる場合、議決権行使が滞ったり、予期せぬ売却が行われたりして、経営の安定性や事業承継の計画が大きく損なわれるリスクがある。

「今はあなたが100%株主なので、株主総会も形式的で済んでいますね。しかし、もし株式が分散すれば、それぞれの相続人が株主としての権利を持つことになります。例えば、将来的にビジラボが成長し、大きな決定を下す際に、ご家族間で意見が割れてしまい、スムーズな経営ができなくなる、といった事態も十分に起こり得るのですよ」

俺は絶望的な気持ちになった。自分の命の「もしも」が、会社の「未来」をこんなにも不透明にするなんて。自分が死んだら、ビジラボは俺の知らない誰かの手によって、俺の意思とは関係なく変質してしまうかもしれない。これは、想像以上に恐ろしい話だ。

4. 株の分散! 青木の「俺の会社」が瓦解する恐怖

「そ、そんな…。俺の会社が、俺が死んだら、親父とオフクロと嫁さんのものにバラバラに…? そんなバカな!」

俺は頭を抱え込んだ。まさか、自分の死後、こんなにも複雑な問題がビジラボに降りかかるなんて。俺が築き上げてきたものが、法律一つで簡単に瓦解してしまうのか?

「確かに、感情的には受け入れがたいかもしれませんね。しかし、法律は感情では動きません」

神崎さんの冷静な声が、俺のパニックに拍車をかける。

「青木さんがおっしゃるように、ご両親が経営に口を出すことはないかもしれません。しかし、例えば、将来的にビジラボが上場を目指し、資金調達のために株式を公開する、という局面になったとしましょう。その際、一部の株主が株式売却に反対したり、あるいは予期せぬタイミングで株式を第三者に売却したりする可能性もゼロではありません」

「うわああ、想像しただけで胃が痛いっす…。俺は、ビジラボを成長させて、もっと世の中に貢献したいと思ってるのに、もし俺が死んだら、その夢すら途中で潰されかねないってことか…?」

情熱だけで突っ走ってきた俺は、これまでそんなこと一度も考えたことがなかった。自分の「もしも」の事態が、こんなにも現実的で、かつ会社を揺るがしかねない問題だとは。

「はい。経営者の『もしも』は、そのまま会社の『もしも』に直結します。特に創業期で株式が創業者に集中している会社であれば、その影響は絶大です。だからこそ、この『相続』というテーマは、スタートアップ経営者にとって決して避けて通れない、重要な課題なのですよ」

神崎さんの言葉は、重く、深く、俺の心に突き刺さった。俺はこれまで、会社の成長や資金調達、組織作りには頭を悩ませてきたが、まさか自分の死後のことまで考えなければならないとは。自分が死んだ後のことなんて、死んでしまえば関係ない、なんてバカなことを考えていた自分が恥ずかしくなった。

「このままじゃ、ダメだ…。俺は、ビジラボを未来に繋ぐために、まだやるべきことが山ほどあるのに…。自分の死が、ビジラボの足かせになるなんて、絶対嫌だ!」

俺は強く拳を握りしめた。情熱だけでなく、冷静な「備え」もまた、経営者には不可欠なのだと痛感した。会社の未来は、俺の命一つにもかかっている。この問題から目を背けるわけにはいかない。

5. 命と会社の未来を繋ぐ、新たな決意

神崎さんの話を聞き終え、俺はすっかり意気消沈していた。いや、意気消沈というよりは、一種の危機感と、それに伴う新たな決意が芽生えていたのかもしれない。

「法務、マジで奥が深い…。自分の命まで会社に繋がってるなんて、正直、想像もしてなかったっす」

俺はそう呟いた。これまで、労働契約や知財、契約法務など、様々な「会社のルール」を学んできた。しかし、今回は、俺自身の人生、そして「死」という、最も根源的な問題が会社と直結していることを思い知らされた。

「自分の『もしも』が、こんなにもビジラボにダイレクトに影響するなんて…。俺は、もっとちゃんと考えなきゃダメだ。斉藤さんが『社長は一人じゃない』ってよく言ってたけど、本当にその通りだった。俺一人だけの会社じゃない。ビジラボは、田中も斉藤も、そして将来入ってくるであろう仲間たちのものだ。その未来を俺が安易にぶち壊すわけにはいかない」

「ようやく、そのお気持ちに至りましたか」 神崎さんは静かに微笑んだ。その表情には、少しばかり安堵の色が見えた気がした。

「まずは、家族とちゃんと話します。そして、この『法定相続』の問題をどうするべきか…。ビジラボの未来を守るために、俺が今できることは何なのか。全力で考え、行動します!」

俺は大きく深呼吸をした。胸の奥から湧き上がってくるのは、途方もない不安と、それを乗り越えようとする、もっと大きな決意だった。ビジラボを未来へと繋ぐため、俺はまた一つ、経営者として重い扉を開いたのだった。


2. 記事のまとめ

📚 今回の学び(神崎メンターの総括)

  • [学習ポイント1]: 遺言がない場合、故人の財産(会社の株式を含む)は、民法で定められた「法定相続人」に引き継がれる。

  • [学習ポイント2]: 法定相続人には、「配偶者」、そして「子」「直系尊属(父母など)」「兄弟姉妹」の順で権利が認められ、それぞれに「法定相続分」という相続割合が定められている。

  • [学習ポイント3]: 特にスタートアップの創業者が亡くなった場合、株式が複数の法定相続人に分散することで、経営権の安定性が損なわれ、会社の事業継続に大きな影響を及ぼすリスクがある。経営者は自身の「もしも」に備え、事前に事業承継の準備を検討する必要がある。

今週のリーガルマインド(神崎の教訓) 「あなたの『もしも』は、あなたの『ビジラボ』の『もしも』です。個人の出来事が、会社の存続を揺るがしかねない。それが、経営者の責任の重さであり、法務が教えてくれる現実です。自分の命と会社の未来を切り離して考えることはできません。」

💭 青木の気づき(俺の学び)

「俺が死んだら、嫁さんが全部継いでくれるなんて、甘い考えだったんだな…。まさか親父とオフクロにまで株式が分散する可能性があるとは…。これじゃ、ビジラボの経営がグダグダになるどころか、株主が複数になって、誰が会社のオーナーなのか分からなくなる可能性もあるってことか? 自分の『もしも』が、こんなに会社にダイレクトに影響するなんて、想像もしてなかった。マジで、会社を守るってことは、自分の人生設計も真剣に考えなきゃいけないってことか…。ただ情熱だけで突っ走るだけじゃ、ダメなんだな」


3. 次回予告

🔮 次回予告

今回の法定相続の話で、自分の「もしも」が会社に与える影響の大きさに戦慄した俺。家族のことも会社のことも守るためには、もっと具体的な対策が必要だと痛感した。神崎さんは、「『遺言』というものがあります」と教えてくれたが、そこにはまだ、俺の知らない「遺留分」という恐ろしい壁が待ち受けていた…。一体、どうすれば俺の想いを未来のビジラボに、確かな形で繋げられるんだ?

次回: 第63回 「遺言」のススメ! 遺産分割と遺留分

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