敷金バトル勃発!「原状回復」ってどこまでやればいいの?

メンバー紹介

ここで学べる学習用語:賃貸借契約、敷金、礼金、原状回復、不動産登記、対抗要件

第25回: 敷金バトル勃発!「原状回復」ってどこまでやればいいの?

ビジラボの成長に伴い、ついに新たなオフィスを探すことに。夢と希望を膨らませて内見に臨む俺だったが、新しい賃貸借契約書に潜んでいたのは、またしても「法務の罠」だった。特に「原状回復」の条項は、俺の楽観的な認識を木っ端微塵に打ち砕く。果たして俺は、新たな拠点でのスタートをスムーズに切れるのか? そして、神崎メンターが教える「不動産賃貸借」の真髄とは?


1. 夢のオフィス、忍び寄る契約書の影

「うおおお!これがビジラボの、次の拠点だ!」

俺は興奮を隠しきれず、目の前の物件をまじまじと見つめた。窓から差し込む陽光は暖かく、広々とした空間は、俺たちがこれから成し遂げるであろう未来を象徴しているかのようだった。第24回でサーバー機器の購入契約を無事に終え、ビジラボのSaaS開発は着々と進んでいる。エンジニアの田中は夜遅くまでコードを書き続け、経理の斉藤は資金繰りに頭を悩ませながらも、俺たちの成長を支えてくれていた。今のインキュベーションオフィスも悪くはないが、手狭になってきたのは事実だ。もっと広い場所で、もっと多くの仲間と、もっと大きな夢を追いかけたい。

「社長、ちょっと落ち着いてくださいよ。まだ契約前ですから」

隣で冷静に物件を見定めていた斉藤が、呆れたような声で俺を嗜める。それでも俺の胸の高鳴りは止まらない。これまでの狭いオフィスでは、来客スペースも満足になかったし、田中が集中できる個室も作ってやれなかった。だが、ここなら!ここに引っ越せば、もっと効率的に、もっと快適に、もっとクリエイティブに仕事ができるはずだ!

大家さんから渡された物件資料と契約書のひな形を、俺はさっそくパラパラと捲ってみた。専門用語がズラリと並び、読む気も失せるが、営業時代に培った「重要そうな箇所だけ斜め読みスキル」を駆使して、家賃や敷金、礼金、更新料といった数字だけをピックアップしていく。

「ふむふむ、家賃はまあ、想定内だな。敷金が3ヶ月分で、礼金が1ヶ月分か…結構な初期費用になるな。でも、この広さなら安いもんか!」

俺は納得したように頷き、次のページへと視線を移した。すると、「原状回復義務」と書かれた条項が目に飛び込んできた。

第〇条(原状回復義務)

借主は、本件建物の明け渡しに際し、借主の故意過失の有無を問わず、本件建物を賃貸借開始時の状態に回復させるものとし、その費用は全て借主の負担とする。

「…ん?」

一瞬、眉をひそめたが、すぐに「まあ、こんなもんだろ」と思い直した。前のオフィスを借りる時も、原状回復は借主負担って書いてあったしな。部屋を借りるってことは、綺麗に使って、出て行く時は元に戻すのが当たり前だろ?別に特別なことじゃない。俺は壁に穴を開けたり、床を汚したりするつもりもないし、普通に使っていれば大した費用にはならないだろう。

「社長、この『原状回復は全て借主の負担』という条項、気になりませんか?」

斉藤が、俺が読み飛ばそうとしたその部分を指差して言った。

「え?ああ、まあ、普通じゃないか?部屋借りて、綺麗にして返すのは当たり前だろ?」

「でも、『故意過失の有無を問わず』って書いてありますよ?ということは、普通に使っていて劣化した部分も、全てビジラボが負担するってことになりかねません」

斉藤の指摘に、俺は初めてその条項の意味を深く考えさせられた。確かに「故意過失の有無を問わず」って書いてあるな…。つまり、俺が壁にぶつかって傷をつけなくても、日焼けで壁紙が変色したり、床が擦り減ったりした場合も、俺たちが直す費用を払わなきゃいけないってことか?

「いやいや、まさか。そんな理不尽な話があるわけないだろ。経年劣化ってやつは、大家さんが負担するものなんじゃないのか?俺は借りてるだけだぞ?」

俺はまだ、自分の認識が正しいと信じたかった。この物件は本当に素晴らしい。ここを逃したら、いつまたこんな理想のオフィスに出会えるかわからない。この契約書の一文で、夢が遠ざかるのは嫌だった。早くサインして、新しいスタートを切りたい。そんな逸る気持ちが、俺の判断を曇らせていたのかもしれない。しかし、斉藤の不安そうな顔が、俺の楽観論をじわじわと侵食していく。本当に、これで大丈夫なのか? もしとんでもない費用を請求されたらどうする? また、俺の法務知識不足が、ビジラボの足を引っ張ることになるのか…?

(まさか、こんなところにも法務の落とし穴があったとは…。俺はまた、何か決定的なことを見落としているのか?)

2. メンター神崎の冷静な指摘と法務用語の提示

「社長、その契約書、やはり一度、神崎さんに見ていただいた方が良いと思います」

斉藤が俺の不安を代弁するように言った。その言葉に、俺はハッとした。そうだ、俺たちには神崎さんがいるじゃないか! 第24回でサーバーの所有権留保について学んだばかりだ。モノの契約一つとっても、これほど奥が深いのだ。ましてや、数年単位で借りる「不動産」の契約となれば、もっと慎重になるべきだろう。

俺はすぐに神崎さんに連絡を取り、契約書のスキャンデータを送って、今抱えている疑問を伝えた。数時間後、インキュベーションオフィスの一角にある共用ラウンジで、神崎さんはいつものように俺の目の前に現れた。手には、俺が送った契約書のひな形が挟まれたファイルが握られている。

「青木さん、ご連絡ありがとうございます。新しいオフィス、いよいよですね。拝見しました。この『原状回復』の条項ですが…」

神崎さんは、まるで当然のように俺の疑問を察していたかのように、核心を突いてきた。

「…やはり、まずいんすか?」

俺はゴクリと唾を飲んだ。

「ええ、この条項は、一般的な解釈とは異なる点がいくつか見受けられますね。青木さんのような事業者が賃貸借契約を結ぶ際、特に注意すべきは、この『原状回復』、そして『敷金』や『礼金』の法的性質です。さらに、この場所でビジネスを安定的に継続するためには、『不動産登記』と、それがもたらす『対抗要件』についても理解しておく必要があります」

神崎さんの口から、またしても聞き慣れない法務用語が次々と飛び出す。「賃貸借契約」「敷金」「礼金」「原状回復」「不動産登記」「対抗要件」…。俺はただでさえテンパっているのに、頭の中が真っ白になる。

「対抗要件…?ていこうようけん…?えっと、それは、大家さんと戦うための武器ってことっすか!?」

俺は咄嗟に、自分の知っている言葉でなんとか理解しようと、的外れな質問を投げかけた。神崎さんは、いつものように冷静な表情で、小さく首を横に振った。

「青木さん。ビジネスにおける『ルール』は、戦うための武器ではなく、むしろトラブルを未然に防ぎ、万が一の時に自分たちの権利を守るための『盾』であり、『道標』です。今から、この盾と道標について、お話ししましょう」

神崎さんの言葉は、俺の頭にガツンと響いた。またしても、俺は法律を「戦いの道具」としか見ていなかった。法律は、もっと奥が深いのだ。

3. 神崎の法務解説:賃貸借契約の裏側と「原状回復」の真実

【神崎の法務レクチャー】

「青木さん、まず今回のテーマである『賃貸借契約』ですが、これは民法に定められた基本的な契約類型の一つです。民法601条には、『当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対して賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる』とあります。簡単に言えば、物(この場合、オフィス)を借りて使う代わりに、賃料を支払う契約ですね。」

神崎さんは、穏やかな口調で語り始めた。俺はメモを取りながら、必死にその言葉を追う。

「そして、賃貸借契約には、いくつかの種類がありますが、今回のようにオフィスを借りる契約は、その目的が『ビジネス』ですので、居住用の賃貸借とは異なる側面も持ち合わせます。とはいえ、基本原則は同じです。まず、青木さんが気にされていた初期費用の話から進めましょうか。『敷金』と『礼金』ですね。これらは賃貸借契約に伴う一時金ですが、法的な性質が全く異なります。」

「敷金(しききん)というのは、民法上の定義はありませんが、一般的には『賃料その他賃貸借契約から生ずる賃借人の債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭』と解釈されています。つまり、家賃の未払いや、退去時の原状回復費用、損害賠償費用などに充てるための『担保金』です。契約が終了し、賃借人が一切の債務を履行すれば、原則として返還されるべきものです。」

「一方、『礼金(れいきん)』は、これも法的な明確な定義はありませんが、『賃料とは別に、賃貸借契約の締結を賃貸人に謝礼する意味合いで支払われる金銭』とされています。こちらは、返還義務のない金銭です。つまり、大家さんへの“ありがとう”の気持ちとして一度支払ったら、戻ってこないお金だと認識してください。最近では、礼金を取らない物件も増えていますが、まだまだ慣習として残っています。」

俺は、敷金は返ってくるけど、礼金は返ってこないのか…と改めて認識した。漠然と「初期費用」としか考えていなかったが、一つ一つにちゃんと法的な意味があるんだな。

「そして、青木さんが最も懸念されていた『原状回復』についてです。この条項は、賃貸借契約におけるトラブルで最も多いものの一つと言えるでしょう。まず、原則として、賃借人の『原状回復義務』とは、『賃借人が借りた当時の状態に戻す』という意味ではありません。

俺は目を見開いた。え、そうなの!?

「はい。民法上、賃借人は『賃借物を受け取った後に生じた損傷がある場合、これを原状に回復して返還しなければならない』とされています(民法621条)。しかし、この『損傷』とは、賃借人の故意や過失、あるいは通常の使用を超えるような使い方によって生じた損傷を指します。」

「つまり、普通に生活したり、ビジネスに使ったりする中で自然に生じる汚れや傷、これを『経年劣化』や『通常損耗(つうじょうそんもう)』と言いますが、これらは賃借人の責任ではないため、原則として賃借人はその回復費用を負担する必要はありません。これは、建物の価値が時間の経過とともに減少し、また使用によって損耗することは、賃料の中に含まれて支払われている、という考え方に基づいているからです。」

【神崎の補足解説】原状回復(げんじょうかいふく)とは?

賃貸借契約において、借主が賃貸物件を明け渡す際に、借りた当時の状態に戻す義務。ただし、原則として、借主の故意・過失による損傷や、通常の使用を超えるような使い方によって生じた損傷のみが対象となる。経年劣化や通常損耗(自然に生じる汚れや傷)は、原則として借主の負担とはならない。スタートアップの場合、オフィス利用による壁の汚れや床の傷なども、通常損耗の範囲であれば、その修繕費用は大家が負担すべき、という考え方が一般的。

「ただし、青木さんの契約書にあったように、『特約』でこの原則と異なる定めをすることも可能です。つまり、『経年劣化や通常損耗も含めて、借主が全て原状回復費用を負担する』という特約を結ぶことは、法律上、一応は認められています。」

「え、じゃあ俺の契約書、有効なんですか!?」

俺は焦って尋ねた。

「いえ、必ずしも有効とは限りません。特に居住用物件においては、『消費者契約法』という法律があり、消費者に一方的に不利な特約は無効とされる場合があります。事業者間の契約である青木さんのケースでは、消費者契約法は直接適用されませんが、それでも社会通念上、借主にあまりに一方的に不利で、かつ借主がその内容を十分に認識・理解していなかったと評価されるような特約は、裁判所で無効と判断される可能性があります。」

「過去の判例でも、賃借人に通常損耗分の原状回復義務を負わせる特約は、その内容が明記され、賃借人が明確に認識・合意していること、そして追加的な賃料負担として明確に認識できるような措置が取られていることなど、非常に厳しい有効要件が課されています。国土交通省からも、賃貸住宅における『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』が公表されており、原則として経年劣化・通常損耗は賃貸人負担とされています。このガイドラインは居住用ですが、その考え方は事業者用物件にも影響を与えます。」

「つまり、青木さんの契約書にある『故意過失の有無を問わず、本件建物を賃貸借開始時の状態に回復させるものとし、その費用は全て借主の負担とする』という条項は、そのままでは借主であるビジラボに一方的に不利な可能性があり、交渉の余地がある、あるいは裁判で争えば無効となる可能性もゼロではないということです。」

俺は愕然とした。またしても、俺の無知が招くところだった。危ない、危ない。斉藤が止めてくれなかったら、そのままサインしてしまっていたかもしれない。

「そして、もう一つ重要なのが、青木さんの会社がそのオフィスで安定的に事業を継続するための仕組みです。『不動産登記』と『対抗要件』についてお話ししましょう。」

「賃貸借契約は、賃貸人と賃借人の間の『債権債務関係』です。つまり、大家さんが青木さんに物件を使う権利を与える義務があり、青木さんが家賃を払う義務がある、という関係性です。しかし、この『賃借権』という権利は、あくまで大家さんとの契約によって生じる権利であって、例えば大家さんがその物件を別の第三者に売却してしまった場合、新しい大家さんに対して、青木さんは『俺は賃借人だ!』と主張できるでしょうか?」

俺は考え込んだ。新しい大家さんが「そんな契約は知らない」と言い出したら、追い出されてしまうのだろうか?

「残念ながら、原則として主張できません。これを『債権の相対効』と言います。契約した相手にしか主張できない、ということです。しかし、それでは賃借人は非常に不安定な立場に置かれてしまいます。そこで、法律は『対抗要件』という仕組みを設けています。」

「『対抗要件』とは、ある権利が第三者に対しても有効であることを主張(対抗)するために必要な条件のことです。不動産の場合、民法177条により、『登記』が対抗要件となります。つまり、青木さんの賃借権を『登記』していれば、たとえ大家さんが変わっても、新しい大家さんに対して『俺にはこのオフィスを借り続ける権利がある!』と堂々と主張できるわけです。」

【神崎の補足解説】対抗要件(たいこうようけん)とは?

ある権利の発生や変更について、当事者以外の第三者に対して主張するために必要な法律上の要件。不動産の賃借権の場合、原則として不動産登記を行うことで、賃借人はその権利を第三者(例:新しい大家、競売で物件を落札した者など)に対しても主張できるようになる。これにより、万が一物件の所有者が変わっても、借主が安定して物件を使い続けられるようになる。事業者にとって、事業の継続性を確保する上で非常に重要な概念。

「しかし、実際には、賃借人が賃借権の登記を行うことは非常に稀です。なぜなら、賃借権の登記には、大家さんの承諾が必要であり、手間や費用もかかるため、大家さん側が嫌がることが多いからです。そこで、借地借家法という法律が、賃借人を保護するための特別な規定を設けています。それは、『建物の引渡し』を受けた場合、賃借権の登記がなくても、第三者に対抗できるというものです(借地借家法31条1項)。」

「つまり、青木さんが新しいオフィスに引っ越し、実際にその建物の鍵を受け取り、中に入って使用を開始すれば、それで対抗要件を備えたことになります。これで、万が一物件の所有者が変わっても、新しい大家さんに対して『俺たちは賃借人だ!』と主張し、借り続けることができるわけです。これは、特に事業者にとって、事業の継続性を確保する上で非常に重要な保護措置と言えるでしょう。」

神崎さんの解説は、まるで目の前に法律の地図が広がるようだった。敷金と礼金の違い、原状回復の原則、そして何よりも「対抗要件」の重要性。このオフィスが、単なる借り物ではなく、ビジラボの未来を支える場所になるためには、法律の知識が不可欠なんだと痛感した。

4. 青木の理解と葛藤:知識は最強の交渉材料

神崎さんの解説を受け、俺は頭の中で必死に情報を整理した。

「なるほど…。要は、俺が普通に使ってできた傷や汚れは、原則として大家さんが直すべきで、俺が全部負担する必要はない、ってことっすか?」

「原則論としては、その認識で間違いありません。ただし、特約でその原則を覆すことも可能ですが、その特約が有効と認められるには厳しい条件がある、ということです。例えば、賃料を相場より安く設定する代わりに、通常損耗分の原状回復費用も借主が負担することを明確に合意するといったケースなら、有効とされる可能性はあります。」

「そして、仮に大家さんが変わっても、俺たちが実際にそのオフィスを使っていれば、新しい大家さんに『賃借人だ!』と主張し続けられる、と。それが『対抗要件』ってやつなんですね!」

俺は、神崎さんの言葉を自分の言葉に置き換え、声に出して確認した。少しだけ、理解が深まったような気がする。だが、まだ不安は残る。

「でも、もし大家さんがこの契約書にサインしろって言って聞かなかったらどうするんすか?俺たち、このオフィス、絶対欲しいんすけど…」

俺の言葉に、神崎さんは静かに頷いた。

「それは青木さんの悩み、非常によく理解できます。ビジネスの現場では、法的な正論だけでは物事が進まないことも多々あります。ここで重要なのは、『契約自由の原則』『交渉力』です。第16回で学んだように、契約は当事者同士の合意で成立します。今回の件でいえば、賃貸人と賃借人、つまり大家さんとビジラボが自由に契約内容を決めることができる、という原則です。」

「しかし、『契約自由』といっても、社会通念や公序良俗に反する内容や、著しく一方的な内容が常に有効というわけではありません。特に、情報の非対称性や交渉力の差がある場合、弱い立場を保護するための法規制が存在します。今回の場合、青木さんは『賃借人』として、賃貸人に対して交渉する権利があります。その交渉の材料となるのが、今お話しした『原状回復』に関する法的な原則です。」

「青木さんができることは、この契約書の内容を精査し、もし法的に見て不当と思われる条項があれば、それを根拠に大家さんと交渉することです。例えば、『この原状回復の条項は、国土交通省のガイドラインや判例の考え方と異なり、借主に一方的に不利ではないでしょうか。このままでは、将来トラブルになる可能性を懸念します』と、具体的な根拠を示して修正を求めるのです。もし、大家さんが『これでなければ契約しない』と言うのであれば、それはそれで一つの選択ですが、その場合は、そのリスクを承知の上で契約するか、別の物件を探すか、という判断が必要になります。」

俺は拳を握りしめた。そうか、法務知識は「交渉の武器」にもなるんだ。これまで俺は、法律の専門知識がないがゆえに、いつも相手の言いなりになって、言われるがままにサインしてきた。だが、神崎さんに教えてもらったこの知識があれば、ただ「嫌だ」と言うだけでなく、「なぜ嫌なのか」「どうすれば妥当なのか」を論理的に説明できる。それは、ビジラボを守ることにも繋がる。

「交渉…!そうっすね、交渉してみます!それでダメなら、もう一度、斉藤と話し合って、どうするか決めるしかないっすね!」

俺の顔には、もう不安の色はなかった。あったのは、法律を味方につけた者だけが持てる、確かな自信と、経営者としての強い決意だった。

5. 解決への一歩と小さな成長

俺はすぐに大家さんに連絡を取り、契約書の原状回復条項について話し合いの場を設けてもらった。最初は渋っていた大家さんも、俺が「国土交通省のガイドライン」や「判例の動向」といった言葉を出すと、さすがに表情を変えた。もちろん、俺は神崎さんの言葉を借りただけだが、言葉に説得力があったのだろう。

結果的に、大家さんは「通常損耗や経年劣化については、賃貸人の負担とする」という文言に修正することに同意してくれた。初期費用の敷金と礼金については変更なしだったが、最も懸念していた原状回復の費用で、不当な請求をされるリスクを回避できたのは大きかった。

「いや〜、マジ助かりました、神崎さん!これで、安心して新しいオフィスに移転できます!」

俺は神崎さんに深々と頭を下げた。

「お役に立てたなら何よりです、青木さん。重要なのは、ただ法律を知るだけでなく、それをビジネスの場でどう活用するか、です。今回の経験を通じて、青木さんの『交渉力』もまた、成長したのではないでしょうか。」

神崎さんの言葉に、俺は胸を張った。確かにそうだ。以前の俺だったら、何も言わずにサインして、後で後悔していたに違いない。だが、今は違う。法律は、俺たち経営者が、自信を持ってビジネスを進めるための羅針盤になり得るのだと、改めて実感した。

新しいオフィスで、ビジラボの挑戦はさらに加速するだろう。壁に貼られた「ビジラボの理念」が、俺たちの成長を静かに見守っている。法務、マジでヤバいけど、やるしかねぇ。この知識を活かして、俺はビジラボを必ず成功させる!


2. 記事のまとめ

📚 今回の学び(神崎メンターの総括)

  • 賃貸借契約の基本: 物を借りて使う代わりに賃料を支払う契約。目的がビジネスの場合も多い。

  • 敷金と礼金: 「敷金」は担保金で、原則返還される。「礼金」は謝礼金で、原則返還されない。

  • 原状回復義務の原則: 借主が負うのは、故意・過失または通常の使用を超える使い方によって生じた損傷の回復費用のみ。経年劣化や通常損耗は、原則として賃貸人の負担となる。

  • 特約の有効性: 原則と異なる特約(例:通常損耗も借主負担)も可能だが、事業者間契約でもあまりに一方的な内容は無効と判断される可能性がある。国土交通省のガイドラインや判例の動向も考慮し、慎重な検討が必要。

  • 対抗要件の重要性: 賃借権を第三者(例:新しい大家)に主張するためには「対抗要件」が必要。不動産賃貸借の場合、原則は登記だが、建物の引渡しを受けることでも対抗要件を備えることができる。

今週のリーガルマインド(神崎の教訓) 「契約は『自由』であると同時に『責任』が伴います。書面にサインするという行為の重さを理解し、自分の権利と義務を知ること。それが、未来のトラブルから会社を守る唯一の方法です。」

💭 青木の気づき(俺の学び)

「『原状回復は全部借りる側が負担』なんて、常識だと思ってたけど、全然違った!経年劣化とか普通に使ってできた汚れは、大家さんが直すのが原則なんだな。それを知ってるかどうかで、交渉の結果が全然変わるってことを身をもって体験した。法律って、ただの規制じゃなくて、俺たちを守るための盾にもなるんだな。次はもっと、契約書をちゃんと読んで、怪しいと思ったらすぐ神崎さんに相談するぞ!新しいオフィス、これで安心して迎えられる!」


3. 次回予告

新しいオフィスへの引っ越し準備も着々と進み、俺の胸は期待でいっぱいだった。しかし、ビジラボの事業拡大に伴い、開発業務のさらなる加速が求められる。エンジニアの田中だけでは手が回らなくなり、外部のプログラマーに業務を委託することになった。

「田中くんの業務の、一部を外部にお願いしようと思うんだ。これって、前に神崎さんが言ってた『請負契約』と『準委任契約』、どっちで結べばいいんすかね?」

俺はそう言って、新たな契約書のひな形を手に神崎さんの元を訪れた。しかし、神崎さんの顔には、いつもの冷静さの中に、わずかな懸念の色が浮かんでいた。

「青木さん、それは非常に重要な判断です。その契約の目的が『仕事の完成』なのか、それとも『業務の遂行』なのか。この違いを明確にしないと、将来的に『偽装請負』という、非常に危険な事態を招く可能性がありますよ…」

次回: 第26回: ヒトの契約(1) 請負契約と委任契約 「偽装請負」の罠!

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