社長が会社に貸したカネ。「利息」ってどう決めるの?(法定利率)

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ここで学べる学習用語:消費貸借契約、金銭債権、法定利率、遅延損害金


第28回: 社長が会社に貸したカネ。「利息」ってどう決めるの?(法定利率)

前回、顧客の大事なデータを預かるという寄託契約の重みに、俺は「商人」としての責任を痛感した。会社の存続を左右するようなリスクが、日常の業務の中に潜んでいることを思い知らされたばかりだ。そんな余韻も冷めやらぬ中、今度は会社の経理処理で、俺自身がポケットマネーからビジラボに貸した「借入金」の問題が浮上した。斉藤さんの冷静な問いかけと、神崎さんの鋭い指摘に、お金の貸し借りの基本、特に「利息」という見慣れないルールに戸惑うことになるなんて、夢にも思っていなかった──。


1. 緊急浮上!社長の個人貸付、まさかの「利息問題」

「社長、ちょっとお時間いいですか?」

斉藤さんが少し遠慮がちに、しかし真剣な眼差しで俺に声をかけてきたのは、ランチタイムもとっくに過ぎた午後3時を回った頃だった。俺は新サービスの企画書作成に没頭していて、「ん?なんだ?」と生返事をしたまま、ディスプレイから目を離せなかった。

「あの、創業期に社長が会社に貸してくださったお金、いわゆる『社長からの借入金』のことなんですが…」

その言葉に、俺は思わず動きを止めた。ああ、あの時のことか。ビジラボを立ち上げたばかりの頃は、本当にカネがなかった。最初のオフィスを借りる保証金、最低限のPCやデスク、そして田中を採用するための諸費用。クラウドファンディングで集めた資金だけでは到底足りなくて、俺の貯金を文字通り根こそぎ突っ込んだ。あの頃は、毎月毎月、預金残高が減っていくのを見るのが怖くて、夜中に何度も目が覚めたものだ。

「ああ、あれか。ありがとな、斉藤。あの時、俺の貯金がなかったら、ビジラボは始まってすらいなかったかもな」 俺はディスプレイから視線を外し、斉藤に向き直った。少し感慨深げに過去を振り返ると、斉藤は困ったような顔で眉を下げた。

「はい、それは本当にありがたかったんです。ですが…その『借入金』について、会計処理上、いくつか確認したいことがありまして」

俺は首を傾げた。「確認?なんだ、別に何か問題があるのか?俺が会社に貸した金だろ?むしろ、いつか返してもらうんだから、会社側にとっては『債務』、俺にとっては『債権』になるって、確か前に神崎さんが…」

そこまで言って、俺はハッとした。そういえば、神崎さんが「法律を知らないことは、地図もコンパスも持たずに嵐の海へ出航するのと同じ」と言っていたな。俺の「善意」とか「常識」が、法律の世界では全く通用しないことは、これまで何度も経験してきた。もしかして、今回も…?背中にひんやりとしたものが走る。

斉藤は、俺の不安を察したかのように、少し声を潜めて続けた。 「ええ、もちろんそうです。帳簿上は『役員借入金』として計上されています。問題は、その契約内容なんです。社長と会社の間で、きちんと『金銭消費貸借契約書』は交わされていますか?」

「き、契約書?」 俺は思わず目を剥いた。契約書なんて、あるわけがない。あの頃は、とにかく事業を立ち上げることに必死で、そんな悠長なことをしている余裕はなかった。口約束というか、むしろ「無言の了解」で、俺の貯金が会社の運転資金に充てられていったのだ。

「いや、そんなものはないぞ。俺と会社だぞ?家族みたいなもんだろ、ビジラボは。まさか、俺が会社を訴えるわけでもないんだし…」 俺が苦笑いしながら答えると、斉藤はやはり困った顔のまま、会社のPC画面を俺に見せた。そこには「役員借入金 ◯◯◯円」と記された、見慣れない数字の羅列があった。

「あのですね、社長。確かに今は問題なくても、将来的に税務調査が入った場合や、もしビジラボが成長して外部からの出資を受け入れることになった場合など…この『契約書がない』という状況は、非常に大きな問題になりかねないんです。特に、その『利息』について、何も定めがないのが気になりまして…」

「利息?」 俺はさらに混乱した。利息なんて、考えたこともなかった。まさか、俺が会社に貸した金に、俺自身が利息を払うなんて、そんな馬鹿な話があるか。というか、俺は別に金儲けのために会社に金を貸したわけじゃない。純粋な「支援」だ。

「そうなんです。利息。例えば、社長が会社に100万円貸したとして、それが無利息のまま何年も放置されていると、税務上は『会社が社長から不当に利益供与を受けている』と見なされたり…いや、これはまだ最悪のケースですが」

斉藤の説明は、俺の頭の中をさらに掻き乱した。不当な利益供与?俺が、俺の会社に?意味がわからない。俺はただ、ビジラボを軌道に乗せたい一心で、身銭を切っただけなのに。 俺の楽観的な頭の中には、「俺の会社だから大丈夫」という甘い認識が根強く残っていた。しかし、斉藤の真剣な表情と、彼女が口にする「税務調査」「外部出資」「問題になりかねない」といった言葉は、まるで鋭利なナイフのように俺の思考を切り裂いていく。

「ヤバい、全然わかんねぇ…。なんで俺が会社に貸した金に、利息とか、税務とか、そんな面倒な話が出てくるんだよ…」 俺は頭を抱えた。法律の知識不足が、またもやこんな形で浮上するとは。俺は、自分と会社の間のお金の貸し借りだからと、完全に舐めていたのだ。この問題、どうすればいいんだ…?背後から、聞き慣れた声が聞こえた。

「青木さん、また何かトラブルですか?」 振り向くと、そこに立っていたのは神崎さんだった。その声はいつも通り冷静で、しかしその目に宿る光は、すでにこの状況を深く理解しているかのように見えた。俺は、救いを求めるように神崎さんを見た。

2. 神崎メンター、金銭債権の「基本」を問いかける

「か、神崎さん!ちょうどよかった!いや、よくないんですけど!俺が会社に貸した金の話で、斉藤さんが『契約書がないとまずい』とか『利息がどうのこうの』って…」 俺は矢継ぎ早に状況を説明しようとするが、焦っているせいで言葉がうまく出てこない。

神崎さんは、そんな俺を落ち着かせるように、ゆっくりと話を遮った。 「ええ、斉藤さんから少しお話は伺いました。青木さんがビジラボ設立時に、自己資金を会社に提供された件ですね。それは経営者として、大変素晴らしいご決断だったと思います」

神崎さんの言葉に、少しだけ胸を撫で下ろす。だが、その直後に続く言葉は、やはり俺の甘さを突きつけるものだった。

「ですが、それは同時に、青木健一さんという『自然人』と、ビジラボという『法人』の間で、立派な『消費貸借契約』が成立している、ということでもあるんですよ」

「し、消費貸借契約?」 俺は初めて聞く言葉に目を丸くした。契約、という言葉はわかる。だが「消費貸借」とは、一体なんだ?

「はい。そして、その結果として、会社側には青木さんへの『金銭債務』が、青木さんには会社に対する『金銭債権』が発生しているわけです」

「き、金銭債権…って、債権はわかりますけど、『金銭』ってつくと、また別物なんすか?」 俺はもう、頭の中がこんがらがっていた。「債権」という言葉は、以前、斉藤さんの経理報告で「売掛金が債権」だと聞いたことがある。モノやサービスを渡した対価として、お金を受け取る権利のことだ、と。でも、今回のは、俺が会社にお金を「貸した」話だ。同じ「債権」でも、何か違うのだろうか。

神崎さんは、俺の疑問を予想していたかのように、静かに答えた。 「基本的には同じです。金銭債権とは、文字通り『お金を受け取る権利』のこと。売掛金もそうですし、銀行からの借入金も、銀行から見れば金銭債権になります。そして、青木さんが会社に貸したお金も、当然『金銭債権』です。問題は、そのお金の『対価』について、何も取り決めがない点ですね」

「対価…?」 「はい。つまり、『利息』です」

神崎さんの言葉に、俺はまた「利息」という言葉の重さに直面する。 「いや、利息なんて考えてもなかったっすよ。俺が会社にタダで貸した金なのに、なんで利息なんて発生するんすか?だいたい、そんなの誰が決めるんですか?」

俺の問いに、神崎さんはフッと小さく笑った。 「良い疑問ですね、青木さん。まさにそこが今回のポイントです。契約で明確に『利息はつけない』と合意していない限り、たとえ家族や友人間であっても、お金を貸し借りする際には、法律で定められた『見えないルール』が適用される場合があるのです。それが、『法定利率』というものなんですよ」

「ほ、法定利率…?」 俺は、またもや新しい、そして全く想像していなかった法律用語にぶつかり、思考がフリーズした。俺が会社に貸した金に、勝手に「ルール」が適用され、さらに「利息」が発生する可能性があるというのか?そんな馬鹿な話があるか。しかし、神崎さんの表情は一切揺るがない。これは、どうやら俺が軽く考えているような、些細な問題ではないらしい。俺は、神崎さんの次の言葉を、固唾を飲んで待った。

3. 神崎の法務レクチャー:お金の貸し借り、その「見えないルール」

「青木さん、ご自身が会社にお金を貸された行為は、まさしく『消費貸借契約』という法律行為に該当します。そして、この契約には、利息に関する重要なルールがあるんです」

神崎さんはそう言って、ホワイトボードにサラサラとペンを走らせた。

【神崎の法務レクチャー】 「まず、『消費貸借契約』についてですが、これは当事者の一方が、相手方からある物(多くの場合、金銭ですね)を借り受け、それを消費した後に、それと同種、同量、同品質の物を返還することを約束する契約のことです。青木さんが会社にお金を貸し、会社がそのお金を事業のために使い、将来的に同じ金額を青木さんに返す。まさにこの形です」

【神崎の補足解説】消費貸借契約(しょうひたいしゃくけいやく)とは?

貸主が借主に、金銭やその他の物を渡し、借主がそれを消費した後に、同種・同量・同品質の物を返還することを約束することで成立する契約です。ビジラボのようなスタートアップが銀行から融資を受ける場合も、社長個人が会社にお金を貸す場合も、友人・知人からお金を借りる場合も、すべてこの消費貸借契約に該当します。契約書がなくても口頭の合意や、実際にお金が動いた事実があれば成立し得ますが、利息の有無や返済期日などを明確にするためにも、書面での契約は極めて重要です。

「この消費貸借契約には、原則として『有償』と『無償』の二種類があります。『有償』というのは、利息をつけてお金を貸し借りする場合ですね。銀行の融資などが典型です。そして、『無償』は、利息をつけない場合。家族間や友人間の貸し借りでは、多くが無償合意でしょう」

神崎さんは少し間を置いて、俺の顔をまっすぐ見た。 「青木さんが会社に貸したお金は、契約書もなく、利息の定めもなかった。そうですね?」

俺はコクリと頷いた。 「はい。まさか、利息なんて必要だと思ってなかったので…」

「ですよね。しかし、ここに落とし穴があるのです。民法の規定では、お金の貸し借り、つまり金銭消費貸借契約においては、利息の定めがない場合でも、一定の条件を満たせば『法定利率』が適用される可能性があるんです。特に、貸主と借主が双方『商人』である場合ですね。商法では、商人間の金銭消費貸借においては、特約がなければ法定利率による利息を生じる、とされています。ビジラボは『法人』ですから、商人です。そして青木さんも、ビジラボの社長として、商行為の一環として会社に資金を貸したと見なされれば、商人としての性質が問われることもあります」

「え、じゃあ俺が会社に貸したお金にも、勝手に利息が発生してたってことっすか?いやいや、そんなの、俺が自分で自分に利息払うみたいなもんじゃないっすか!」 俺は思わず前のめりになった。

「冷静になってください、青木さん。まだ、その認識は少し違います。たしかに、青木さんと会社の間で明確に『無利息』という合意があれば、法定利率は適用されません。しかし、何も定めていなかった場合はどうなるか。ここで登場するのが、民法改正で注目された『法定利率』の存在です」

神崎さんは、ホワイトボードに「民法改正(2020年4月1日施行)」と書き加えた。

「旧民法では、法定利率は一律で年5%(商事法定利率は年6%)と定められていました。しかし、経済情勢の変化に対応するため、2020年4月1日以降に発生する金銭債権については、『変動制』の法定利率が適用されるようになりました。これは、法務省令で3年ごとに見直されることになっています」

【神崎の補足解説】法定利率(ほうていりりつ)とは?

契約で利息の定めがない場合や、損害賠償額の計算などで、法律が自動的に適用する利息の割合のことです。2020年4月1日の民法改正により、年3%を基準とし、以後3年ごとに法務大臣が公示する割合(変動制)に変更されました。契約で利息の有無や利率を定めていないと、この法定利率が適用される可能性があり、特に会社と社長間の借入金では、税務上の問題や、将来のM&A・資金調達時に不利に働くことがあります。

「この法定利率は、現在(※執筆時点での一般的な利率として、例えば年3%と仮定します)、年3%を基準として変動します。つまり、もし青木さんが会社に貸したお金が無利息の合意がなかったと判断されれば、この法定利率に基づいた利息を、会社は青木さんに支払う義務が生じる、という理屈になります。もちろん、青木さんが『利息は要らない』と言えばそれで済みますが、問題は『何も決めていなかった』という点です」

「何も決めてないと、勝手に『ルール』が適用されちゃうってことか…。それって、誰が不利になるんすか?」 俺は不安そうに問いかけた。

「状況によりますが、青木さんのケースで利息の定めがないまま放置すると、以下のような問題が考えられます。一つは、先ほど斉藤さんが言った税務上の問題です。会社が無利息で借り続けていると、税務署から『社長への利益供与ではないか』と指摘され、会社がその分の利息相当額を『受贈益』として計上したり、青木さんが『給与』や『配当』と見なされて課税されたりするリスクがあります」

俺はゾッとした。俺が会社を助けるために貸した金が、まさか税務上の「利益供与」とか「給与」とかに変わってしまうかもしれないのか。

「もう一つは、将来的な資金調達やM&Aです。投資家や買収監査(デューデリジェンス)では、会社の貸借対照表(BS)を詳細に調べます。その際、『役員借入金』の金額が大きく、かつ契約内容が不明確だと、『ガバナンスが不透明』『税務リスクがある』と判断され、評価が下がることがあります。最悪の場合、投資家からの資金調達が難航したり、買収価格に影響が出たりする可能性も否定できません」

「うわああ、それはヤバい!俺の善意が、まさか会社の足を引っ張るなんて…」 俺は頭を抱えた。法律の無知が、こんなにも遠回しに、そして致命的な形で会社の未来を蝕む可能性があるとは。

「そして、もう一つ重要なのが『遅延損害金』です」 神崎さんの言葉に、俺はビクッと体を震わせた。また新しい用語だ。

「仮に、会社が青木さんに借りたお金を、約束の期日(あるいは合理的な返済期日)までに返せなかった場合、会社は青木さんに対して『遅延損害金』を支払う義務が生じます。これも、原則として法定利率が適用されるんです」

【神崎の補足解説】遅延損害金(ちえんそんがいきん)とは?

契約や法律上の支払い義務があるにもかかわらず、期日までに支払いを履行しなかった場合に発生する損害賠償金の一種です。利息とは異なり、遅延によって生じた損害を補填する目的で支払われます。利率は契約で定められていなければ法定利率が適用され、その期間と金額に応じて発生します。スタートアップ経営においては、顧客への遅延損害金支払いだけでなく、自身が回収すべき債権に対する遅延損害金の請求も重要な法務戦略となり得ます。

「要するに、期日までに金が返せなかったら、さらにペナルティとして金を取られるってことっすか…」 俺はがっくりと肩を落とした。 「そうです。これは、お金を借りる側としては大きなリスクですよね。逆に、ビジラボが顧客から売掛金を回収できない場合、その売掛金についても、期日を過ぎれば遅延損害金を請求する権利が発生します。これは、青木さんが今後、債権回収について考える上でも非常に重要な概念になります」

神崎さんの解説は、俺の頭の中の霧を晴らしていくと同時に、新たな恐怖を植え付けた。お金の貸し借り一つとっても、こんなにも複雑なルールとリスクが潜んでいるなんて。しかも、何も知らずに放置していたことで、将来的な大きな問題の火種を、俺自身が作ってしまっていたのだ。

4. 「利息」の重みを知る青木、背筋が凍る

「要はこういうことっすか、神崎さん」 俺は額の汗を拭いながら、必死で神崎さんの解説を自分なりに噛み砕こうとした。 「俺が会社に貸したお金は、ちゃんとした『契約』として見なされるってことですよね。で、その契約に『利息はつけません』って明記してないと、法律が勝手に『法定利率』ってのを決めて、利息が発生しちゃう可能性がある、と」

神崎さんは穏やかに頷いた。「その通りです。正確には、法人と個人の間の場合、明確な無利息合意があれば問題ないのですが、それが不明確な状態だと税務上のリスクや、第三者からの評価に影響が出やすい、ということです」

「うおお、マジか…。てっきり、俺の会社なんだから、俺の金は俺の金、会社のお金は会社のお金、って線引きはあったとしても、貸し借りに関してはノーリスクだと思ってました…」 俺は自分の認識の甘さに、心底ゾッとした。

「そして、もし会社がそのお金を期日までに返せなかったら、今度は『遅延損害金』っていうペナルティも、法定利率で加算されちゃうんすよね?これ、逆の立場、つまりウチが誰かに金を貸して、相手が返さない場合も同じってことですよね?」

神崎さんは目を細めて、満足そうに頷いた。 「良い理解ですね、青木さん。まさにその通りです。遅延損害金は、債務不履行に対するペナルティですから、貸し借り双方に適用される可能性がある、ということを理解しておく必要があります。今回の青木さんと会社間の借入金は、内部の問題で済みますが、もしこれが外部の取引先相手だったら、より深刻なトラブルに発展していたでしょう」

俺の背筋に、また冷たいものが走る。過去の自分の無知が、まるで時限爆弾のように、会社の土台に仕掛けられていたような感覚だ。情熱と勢いだけで突っ走ってきた創業期。その情熱が、思わぬ法務リスクを生み出していたとは。

「利息って、ただの金儲けのためだけじゃなくて、こうやって『法律で決まってることがある』っていう、すごく重い意味があるんですね…。俺は、お金を貸し借りするってことの『重み』を、全然理解してなかった…」

俺は、自分の無知と、それによって会社が抱え込んでいたリスクの大きさに、深く反省した。スタートアップはスピードが命。だが、そのスピードと引き換えに、見えないところで様々な法務リスクを積み重ねていたことを、今改めて突きつけられた。神崎さんと出会っていなければ、俺は一体どれだけの爆弾を抱えたまま経営を続けていたのだろうか。そう考えると、本当にゾッとする。

「俺は、俺が会社に貸した金でさえ、法律のルールに則って処理しなきゃいけないってことですよね。自分の無責任さが、会社の未来を危うくするところだった…。くそっ、情熱だけじゃどうにもならないことばかりだ…」 俺は悔しさで唇を噛み締めた。でも、同時に、今回の学びは俺の経営者としての意識を大きく変えるものだった。お金の貸し借り一つにしても、そこには明確なルールと、それを守らないことによるリスクが存在する。そして、そのルールを知り、適切に対応することが、会社の未来を守ることに繋がるのだ。

5. 借入金契約書作成へ!小さな一歩が未来を変える

「社長、どうしましょうか、この『役員借入金』…」 斉藤さんが不安そうに俺を見上げた。

俺は一度深呼吸し、神崎さんの顔を見た。神崎さんは静かに頷き、俺の決断を待っている。 「斉藤、まずは『金銭消費貸借契約書』を作成しよう。俺と会社の間で、無利息で、返済期間は〇年、といった内容をしっかり明記した書面だ」

斉藤の顔に、安堵の表情が浮かんだ。 「はい!それが一番確実です。税務リスクも減らせますし、将来の資金調達時にも明確に説明できます」

「ああ。そして、これからはどんな些細なお金の貸し借りでも、必ず契約書を交わすようにしよう。今回は俺と会社だったからまだマシだったけど、もしこれが外部の取引先だったら、もっと大変なことになってたはずだ。俺は自分の認識の甘さに本当に反省した」 俺は、今回の件で学んだことの重みを噛み締めた。

「法務、マジでヤバいけど、やるしかねぇ…。俺がビジラボの社長として、ちゃんとこの会社の舵取りをするには、法律の知識は絶対に欠かせないんだ。見えないルールに怯えるんじゃなくて、ルールを味方につけて、ビジラボを成長させてやる!」

俺は握り拳を作り、心の中で固く誓った。たった一つの「利息」という言葉が、俺の経営者としての意識を一段と引き上げた。法律は、時として複雑で難解だが、それを学ぶことで、会社はより強固な土台を築き、未来に向かって確実に進んでいけるのだ。今日の学びが、ビジラボの未来の小さな、しかし確かな一歩となることを信じて。


2. 記事のまとめ

📚 今回の学び(神崎メンターの総括)

  • [学習ポイント1]: 消費貸借契約と金銭債権の基礎: お金の貸し借りは「消費貸借契約」として法律で規律され、貸主には「金銭債権」、借主には「金銭債務」が発生します。たとえ社長と会社間でも、この法的な関係性は変わりません。

  • [学習ポイント2]: 約定がない場合の法定利率の適用: 利息の定めがない金銭消費貸借契約においては、民法改正により変動制となった「法定利率」が適用される可能性があります。特に、契約内容が不明確だと、税務上の問題や将来的な資金調達・M&Aに悪影響を及ぼすリスクがあります。

  • [学習ポイント3]: 遅延損害金の意味とリスク: 期日までに金銭債務が履行されない場合、「遅延損害金」が発生します。これは契約違反に対する損害賠償であり、原則として法定利率が適用されます。債権回収の場面でも重要な概念となります。

今週のリーガルマインド(神崎の教訓) 「お金の貸し借りは、個人の感情や善意とは切り離して、常に『契約』という客観的な枠組みで捉えるべきです。特に会社経営においては、見えないルールが未来のリスクとなり得ます。明文化された契約書は、トラブルを未然に防ぎ、会社の信頼性を高める『防御壁』であると同時に、『未来への道しるべ』となるのです」

💭 青木の気づき(俺の学び)

  • 「俺が会社を助けるつもりで貸した金なのに、そこに『利息』っていう見えないルールが勝手に適用されかねないなんて、マジで衝撃だった。『契約書がなくても大丈夫』っていう安易な考えが、会社の税務リスクになったり、将来の資金調達を邪魔したりするなんて…。法律って、本当に思わぬところまで影響するんだな。これからは、どんなに身近な取引でも、『契約』としてちゃんと向き合わないとダメだ。自分の情熱と、会社の未来を守るために、法務は避けて通れない道だと痛感した。」

3. 次回予告

今回の「社長借入金」の問題を乗り越え、法務の重要性を改めて肌で感じた俺。契約書作成という小さな一歩を踏み出したばかりだ。そんな中、ビジラボにもついに本格的な事業の成果が表れ始めた。初の大型案件を無事に納品し、待ちに待った「売上」が立つ!喜びに沸くオフィスで、斉藤さんが興奮気味に俺に報告してくる。だが、その言葉には、またもや俺の知らない「法律の影」が潜んでいた。

「社長、『債権』が発生しましたね!」

売上が立って喜ぶ俺に、斉藤が告げた「債権」という言葉。それは、これまで神崎さんが何度も口にしてきた、あの重要な概念だった。そして、その「債権」が、単なる数字ではない、「権利」という財産であり、それを守ることの重要性を、俺は次の問題で嫌というほど思い知らされることになる…。

次回: 第29回 「売掛金」は「権利」! 債権と債務の基本

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